システムアップというコンセプトを前面に打ち出したアイワのステレオラジカセです。豊富な外部端子を装備していることに加えて、大出力アンプにカセットデッキ並みのスペックを誇る高性能デッキメカを搭載した実力機です。
TPR-830(stereo830)とは
ステレオラジカセとしては比較的コンパクトなサイズに高性能メカとシステムとしての発展性を支える充実した機能を装備したアイワの名機です。
システムアップとは
1970年代後半、各メーカーが訴求していたラジカセの楽しみ方のひとつが「システムアップ」です。
レコードプレーヤーや外部スピーカー、外部マイクなどのコンポーネントをラジカセに接続してステレオシステムを構成する、というコンセプト。
単品コンポを組み合わせる本格的なステレオセットには手が届かないけれど、ラジカセでは満足できないヤング(もはや死語ですね)を狙っていました。
もっとも、システムアップのためにラジカセに求められる要件は1.レコードプレーヤーを接続するためのフォノ入力端子があること、2.外部スピーカー端子があること、3.外部マイク端子があることぐらいで、1を覗いては当時のステレオラジカセの標準装備と言えるもの。1も珍しくはありませんでした。つまり、システムアップとはメーカー視点では完全にマーケティング手法と言えます。
カセットデッキとしての魅力
録音レベルの調整方法には、手動でボリュームを操作するマニュアル方式と、入力レベルに応じて自動的にレベル調整するオート方式がありました。
誰でも簡単に使えることがラジカセのメリットのひとつでしたから、レベル合わせに失敗することのないオート方式だけ搭載しているラジカセも多かったのですが、原音に忠実な録音をするにはマニュアル方式が好ましいのです。
本機は録音用途に応じてマニュアルとオートが選択できるところが良いですね。
また、高性能なクロームテープが使えるようにテープセレクターも装備。
デッキ部の性能もカセットに強いアイワらしく、回転ムラを表すワウ・フラッターは0.09%と単品デッキなみ。
周波数特性も優秀で、クロームテープ使用時には50Hz~14,000Hzとラジカセらしからぬワイドレンジ。
ヘッドには音質と耐久性を両立させた超硬質パーマロイを採用していました。
レコードプレーヤー接続に必要なフォノ入力ももちろん装備。
充実した機能
トーンコントロールは高音と低音をそれぞれ調節できる独立式。
ラジオは海外短波放送受信もできる3バンド。BCLも楽しめます。
スリープタイマーも付いています。この機能はラジカセならではのもので、ラジオを聴くときにスリープタイマーをオンにしてカセットを再生状態にしておくと、テープが再生終了になって動作解除されるとラジオの電源がオフになる、という仕組みです。テープの残量がタイマー替わりになるというものです。
左右独立式のレベルメーターはかなり小型。
LEDのパワーインジケーター付きなのは意外と便利です。電源の消し忘れ防止に有効です。
12cmフルレンジスピーカー搭載
スピーカーは12cmのフルレンジ一発です。上位機種では2ウェイ方式が多かったのですが、システムアップすることが前提ならばフルレンジで十分。
出力は5.2Wと標準的。
ヘッドフォンジャックは標準サイズのプラグが使える6.3mm径を採用。
データ
- モデル名:TPR-830
- 発売:1977年(昭和52年)
- 定価:50,500円
- サイズ:W445 x H287 x D117(mm)
- 重量:5.0kg(電池含まず)
カタログより
管理人のつぶやき
このラジカセは高校時代に入寮した際に同級生が持ち込んだものでした。
当時、自分はソニーのゴング55(CF-6300)を持っていたのでなんとなくライバル視したのですが、第一印象としては「デザインが地味」。
ゴング55も本機と同様システムアップをアピールしていて、キャッチコピーは「ヘビー級への道」。デザイン的にはモノラルラジカセの完成形と称される同社のスタジオ1980Ⅱ譲りのカッコ良さがあり、当時話題だったフェリクロームテープのDuadが使えることやカセットホルダーが正立式だったことなども含めて、ライバルには「勝った」と思ったのでした。
ところが、TRP-830を詳しく知るにつれてライバルの優位性が明確になります。
マニュアル録音ができること、フォノ入力が付いていること、短波放送も受信できること。デッキ部の性能もゴングを凌駕していること。とどめの一撃は同じ12cmフルレンジながら音質がゴングより良かったことでした。
見た目では勝っても中味では完敗した、とうなだれたものです。