今日では商用車専業メーカーであるいすゞも、かつては特色のある乗用車を世に送り出していました。なかでも国産車屈指のエレガントなデザインで今日なお人気が高い117クーペ。その名車117クーペの後継車として同じくジョルジェット・ジウジアーロが手掛けたのがピアッツァです。
ピアッツァとは
ジウジアーロによるデザイン
かの117クーペをデザインしたのはイタリアのカロッツェリア・ギアに在籍していたジョルジエット・ジウジアーロでした。ジウジアーロは若くしてその才能を見出され、17歳でフィアットのデザイン部門に入社します。
その後名門カロッツェリア・ベルトーネへの移籍をきっかけに才能が開花。アルファ・ロメオやフィアット、マセラティなどイタリア国内のクライアントのみにとどまらず、BMWやサーブ、日本のマツダなど世界中の自動車メーカーから依頼が殺到。数々の名車を世に送り出すことになります。
1968年には日本人起業家の宮川秀之氏と共同でイタルデザインを設立。ピアッツァはイタルデザイン時代のジウジアーロが手掛けたものでした。
スタディモデルを忠実に量産化
ピアッツァは1979年のジュネーブショーに「アッソ・デ・フィオーリ(クラブのエース)」として発表されたスタディモデルを量産化したしたものです。
一般的にスタディモデルが量産化される際には、製造技術や生産性、また法規制などの制約から「とんがった」部分はかなりそぎ落とされるのが通例ですが、ピアッツァはジウジアーロ本人が驚くほどオリジナルデザインを忠実に再現していました。
唯一、ピアッツァデビュー当時の日本の法規制のためにドアミラーがフェンダーミラーに変更されていました。これにジウジアーロは大きく落胆したと言われていますが、のちの法改正でドアミラーが実現しました。
エクステリアの特徴はセミリトラクタブルライトの採用による低いボンネットを起点とした空力に優れたウェッジシェイプ。当時の日本車の主流であった直線基調とは一線を画し、全体的に卵を思わせる丸みを帯びたエレガントさ。そして表面の凹凸を極力排したフラッシュサーフェスです。
インテリアもユニーク。特にメーターナセル両側に配置されたサテライトスイッチはハンドルから両手を離さず各種機能が操作できるという、かつてのシトロエン車にも見ることができた合理的発想によるものでした。ただし慣れないとかえって扱いにくいということで一般的にはなりませんでした。
中味はデザインに追い付かず
先進的なデザインとは裏腹に、エンジンとシャシーは117クーペやジェミニのコンポーネントをベースに改良を加えたレベルの、いわば旧態依然としたものでした。
マイナーチェンジでターボエンジン車をラインアップしたり、足回りを強化した「イルムシャーシリーズ」や「ハンドリング・バイ・ロータス」仕様を追加するなどテコ入れを図ることになりますが、「古い乗り味」を払拭するまでには至りませんでした。
時代の先を行くデザインと周回遅れのメカニズムというチグハグな組み合わせもあってか販売面では成功したとは言えなかったピアッツァ。しかし旧車ファン目線ではそれもピアッツアらしい味と言えなくもないのではないでしょうか。
ヤナセ専用のピアッツァ・ネロ
ヤナセといえば、メルセデス・ベンツやBMWそしてキャデラックやフェラーリまで世界の高級車の取り扱いで知られた名門ディーラーです。
そのヤナセでもピアッツァを販売していた時期がありました。当時のいすゞはゼネラル・モータース(GM)の子会社として日本でのシェアアップを期待されていたこと、そしてGM代理店でもあったヤナセもラインアップ拡充によって新たな顧客層を開拓したいという、両者の思惑が一致したのです。
ピアッツァ・ネロと命名されたヤナセ専用バージョンは、従来モデルとの差別化のため異形4灯のヘッドランプが導入されたり、後期にはピアッツァ北米版の「インパルス」用ボンネットが導入されました。
データ
- 販売期間:1981年(昭和56年)~1991年(平成3年)
- エンジン:2L直4 SOHC/SOHCターボ/DOHC
- ホイールベース:2,440mm
- 全長:4,385mm
- 全幅:1,675mm
- 全高:1,300mm
- 重量:1,250Kg (MT車)
管理人のつぶやき
歯に衣着せぬ物言いで大いに人気を博していた自動車評論家の徳大寺有恒さん。彼のピアッツァ評はメカニズムの部分を突いていてかなり辛口でしたね。バタバタする足回りとかガサツなエンジンなどとコメントされていたように覚えています。
ピアッツァはモデルライフが長く、国産車では異例なことになんと10年にも及びました。データにあるとおり平成になっても販売が続けられていたんですね。
旧車は魅力的ながら入手後のメンテナンスコストがバカにならないことからおいそれと手を出せないものですが、ピアッツァの最終モデルなら終のクルマとしていいかもなぁ、なんて思ったりします。