KP-1100はケンウッドがCD時代に敢えて世に問うたアナログレコードプレーヤーです。持てる技術をすべて投入し、CDに比肩しうるスペックを実現。アナログプレーヤー最後の傑作といえる名機です。
目次
ケンウッド KP-1100とは
発売はCD時代の1985年
夢のオーディオと呼ばれたCD(コンパクトディスク)の規格が定まったのは1980年。CDプレーヤーの第1号機はCDのオリジネーターでもあったソニーが1982年10月に発売したCDP-101(定価 168,000円)でした。翌1983年にはメーカー各社から一気にCDプレーヤーが発売され、CD時代の幕が開きます。ただ、CDプレーヤーの価格は10万円台後半から20万円台とまだ高嶺の花にとどまっていました。
CDが本格的に普及したのは、CDソフトの充実とCDプレーヤーの低価格化が進んだ1985年あたりといえましょう。低価格化の象徴的な製品としてはマランツのCD-34(定価 59,800円)が挙げられます。
一部を除いてメーカー各社はミニコンポ用を除けばアナログレコードプレーヤーからは撤退しており、もう本格的な新製品は出てこないんじゃないかと思われていたおりに登場したのがKP-1100だったのです。
CDに比肩しうるスペック
KP-1100はケンウッドの持てるアナログレコードプレーヤーづくりのノウハウに新技術も投入した渾身の一台といえます。SN比はなんと90dB、そしてワウ・フラッターも0.005%と、アナログプレーヤーとしてはもはや限界といえるほどの数値を達成。CDに比肩しうると言っても過言ではないスペックを実現しました。
このスペックは、ケンウッドの伝統ともいえる高剛性思想を具現化する複数の技術から生み出されたものです。
強靭なアルミダイキャストフレーム
本体内部にはX字型をしたアルミダイキャスト製の強靭なフレームがあり、このフレームにモーター、アームベース、回路基板、脚などのパーツが取り付けられています。きわめて剛性の高い構造となっているため、モーターとトーンアームの位置関係には一切の曖昧さがありません。
ケンウッドではこの構造を「CLFS(Closed Loop Frame Structure)」と呼んでいます。
高剛性トーンアーム
トーンアームにも高剛性思想が貫かれています。アームの支点には高感度を実現するためにナイフエッジ構造が採用されていますが、ナイフエッジを一般的な縦向きではなく横向きとすることで、感度と剛性を両立させただけでなく、調整が難しいとされるナイフエッジの弱点も克服していました。
アームパイプの内部には5本のリブが成型されており、アームの剛性を高めると同時に鳴きを抑える効果も持たせています。ユニバーサルタイプのヘッドシェルが使えるJ字型のアームとしています。
このトーンアームは「DS(Dynamic Stability)アーム」と名付けられました。
不動のセンタースピンドル
モーターのスピンドルにも剛性を高める仕掛けがなされています。スピンドル自体にヘリングボーンという「くの字型」の溝が切ってあり、スピンドルの回転に伴って周囲に充填されたオイルが循環し、スピンドルの周囲を高い圧力で包むことになるため、スピンドルが絶対中心に固定されながら回転する、というもの。これによりいわゆる「スリコギ運動」を排除することができ、あたかも止まっているかのごとく回転するという理想のターンテーブルを実現しました。
この仕組みは「DL(Dynamic center Lock)システム」と呼ばれます。
インシュレーターにも高剛性思想
ハウリングを防止するためには、インシュレーターにはある程度のコンプライアンス(柔軟性)を持たせて外部振動を吸収させることが一般的です。
KP-1100のインシュレーターもそのような使い方を想定している一方で、プレーヤーの設置場所が十分に強固でハウリングの心配がない場合には、インシュレーターを締め上げることでアルミダイキャストフレームと剛結させることができるようになっています。このように、剛性思想の徹底はインシュレーターにも及んでいます。
データ
- モデル名:KP-1100
- 発売:1985年(昭和60年)
- 定価:99,800円
- ワウ・フラッター:0.005%(FG直読法)
- SN比:90dB
- サイズ:W490 x H182 x D410(mm)
- 重量:14.5kg
カタログより
※実質的にKP-1100と同一モデルである後継機のカタログです。
管理人のつぶやき
写真の実機は管理人が現在使っているものです。中古で入手して特にメンテナンスすることもなく快調に動作しています。
古いオーディオ機器のうち、ダイレクトドライブ方式のレコードプレーヤーはいちばん劣化の恐れが少ないカテゴリーではないかと思います。
他のカテゴリーの中古品はまず間違いなくメンテナンスが必要でしょう。もしくは劣化を承知で使うことになります。
アンプはトランジスタやコンデンサーなどの電子部品の劣化やリレーやボリュームの接点不良。チューナーは高周波系の調整ずれ。カセットデッキだとヘッドの摩耗やアジマスずれ、また回転機構の劣化もあり得ます。スピーカーだとエッジの硬化やネットワークの電子部品劣化が考えられます。
レコードプレーヤーでもベルトドライブやアイドラードライブだとゴム製部品の交換が必須と思って間違いないでしょう。
そんなわけで、アナログレコードプレーヤーは性能の遥かに見劣りする現代の製品を買うより、程度の良い中古のDDプレーヤーをおススメします。