BCLラジオの勢力図は、ソニーのスカイセンサーとナショナルのクーガが2強であとは第3勢力としてくくられてしまう様相でした。三菱電機のジーガムも第3勢力の一角です。ラジオでBCLの情報番組を提供したり高性能なBCLラジオを投入するなど大いに意欲を見せていましたが、BCL市場に見切りをつけるのは早かったようです。
目次
JP-505(ジーガム505)とは
三菱のBCLラジオといえばジーガムシリーズです。初代ジーガムの304が1973年の発売、2代目の404ときて505は3代目にして早くもジーガム最後のモデルとなりました。
ハロージーガム
『ハロージーガム』は日本短波放送(現・ラジオNIKKEI)で1974年1月から1976年3月まで放送されていたBCLファンのための情報番組です。タイトルからわかるように、この番組のスポンサー三菱電機が自社のBCLラジオをプロモートするための番組でした。
BCLファン向けの番組を短波で流す、というのはなかなかうまい手ですね。テレビCMよりも費用対効果は高かったのではないでしょうか?三菱電機がBCLに力を入れていたことが伺えます。
ちなみに番組のパーソナリティは声優の肝付兼太さん。そう、アニメ『ドラえもん』でスネ夫を演じていた方です。
短波重点機構
ジーガム505のキャッチフレーズは「短波重点機構」。
なにやら堅い表現ですが、力を込めていることは伝わってきます。具体的にはどこが重点機構だったのでしょうか?
ダブルスーパーヘテロダイン方式
まずは受信回路です。一般的な「シングルスーパー方式」よりも高感度でイメージ妨害の少ない「ダブルスーパーヘテロダイン方式」を採用していました。
この方式は先代のジーガム404ですでに採用されていましたが、のちにダブルスーパーを採用するソニーのスカイセンサー5900やナショナルのクーガ2200に先駆けていたところがマニアックですね。
ダブルファインコントロール
ファインがダブルです。何のことでしょう?
ひとつは右上のダイヤル「OSC FINE」。これはいわゆる「ファイン・チューニング」のことで、メインダイヤルで目指す周波数近辺にあわせてからファイン・チューニングを使って周波数を微調整し、ピタリ同調するためのもの。周波数直読機構が導入される前のBCLラジオでは必須の機能と言って良いでしょう。
もうひとつのファインは下段中央の「BFO PITCH」。これはBFO版のファイン・チューニングにあたるもの。BFOとはCW信号やSSB信号を復調するための発振器のことですが、簡単に言えばアマチュア無線などを傍聴するための機能です。これも微調整ダイヤルがあると便利です。
IFゲインコントロール
最後にIFゲインコントロール。上の写真の下段右側のダイヤルですね。
IF(中間周波)段の増幅度を変えることができます。平たく言えば感度調整ボリュームです。
普段は右側に回し切った感度Maxで使用しますが、電波の強すぎる放送局だと受信回路が飽和してしまうことがあるため、必要に応じて感度を落とせると便利なわけです。
ナショナルのクーガではRF(高周波)ゲインコントロールがついていました。機能的には同等です。
残念だった「重点突破」
せっかくライバルに負けない「短波重点機構」を備えながら人気が出なかった最大の理由は、短波放送の受信帯域が3.9MHz~12MHzに限られていたこと。
短波をフルカバーすると1.6MHz~30MHzになりますから、BCLラジオとしては物足りません。
一般的な3バンドラジオの短波受信帯域が3.9MHz~12MHzなのは、この帯域さえカバーしていれば主要な放送局はキャッチできるという割り切りがあったためですが、BCLラジオにおいても「重点突破」で良しとしたのは明かに作戦失敗だったと言えるでしょう。
周波数直読機は幻に
これは想像に過ぎませんが、もしジーガム505がそれなりに売れていれば、次のモデルは周波数直読機だったはずです。
ジーガム505発売の半年後にかの名機スカイセンサー5900が、そして翌1976年にはクーガ2200が後を追いますが、いずれもBCLラジオとしては画期的な周波数直読機能を搭載。これ以降は、周波数直読機ならずばBCLラジオならず、という時代を迎えたのですから。
高い技術力を持った三菱電機のこと、おそらく一足飛びに周波数デジタル表示のBCLラジオで他社を出し抜いていたかもしれません。
データ
- モデル名:JP-505
- 発売:1975年(昭和50年)
- 定価:22,800円
- サイズ:W275 x H180 x D84 (mm)
- 重量:2.0kg
カタログより
管理人のつぶやき
BCLラジオをざっくり世代分類すると、第1世代は周波数直読以前、第2世代がアナログ式の周波数直読機、第3世代は周波数のデジタル表示機となりましょう。
この分類に従えばジーガム505は第1世代末期のBCLラジオ。
三菱電機はこのジーガム505をもってBCL市場から撤退しますが引き際が潔かったですね。第1世代だけで撤退したのは三菱電機と三洋電機ぐらでしょうか。
せっかくの高性能を活かせなかったバンド設計の割り切りは残念でしたが、記憶に残るBCLラジオのひとつと言えましょう。
コンパクトなボディに無駄なく整然と配置されたボタンやスイッチ。ワイドで見やすいダイヤルスケール。小音量でも音が痩せないラウドネススイッチ付き。
これでタイマー付きならぜひベッドサイドに置いておきたいラジオです。とにかく惜しい!