独創の技術でカセットデッキの性能を革新し続けたナカミチが、CD時代の1985年に発売した高級モデルです。ナカミチらしさが凝縮した魅力的な一台です。
ナカミチ CR-70とは
ボタン一つで最高の録音を
独創の技術でカセットデッキの性能を革新し続けたナカミチが、CD時代の1985年に発売した高級モデルです。

本機の最大の特徴は録音時のオートキャリブレーションです。
テープをセットしたら、ボタンひとつでヘッドのアジマスに録音基準レベルとバイアスが自動的に最適化される機能です。
他社製品にもバイアスと録音基準レベルやイコライザーを自動調整する機能を搭載したデッキはありましたが、アジマスのオートキャリブレーションはナカミチならではです。
アジマスの重要さ
アジマスとは、ざっくりいうとヘッドとテープの接触角度のことで、これが少しでもズレると、とたんに高音の伸びないこもったような音になってしまうのです。
俗にいう「カセットくさい音」とは、恐らくアジマスずれによって高音がなまった音を言うのではないかと思われます。それほどアジマスずれによる影響は良くあること、だったのです。

普通はヘッドの位置は製造時に調整され固定されたらそのままで、ユーザーが調整することはありません。
しかし、使い方や経時変化によってやがてどうしてもズレが生じてきます。録音時のアジマスと再生時のアジマスが一致していれば問題ないので、同一のデッキで録音再生するぶんにはズレに気付くことはありません。
しかし、同じデッキでも過去に録音したテープだったり、ほかのデッキで録音したもの、あるいは市販のミュージックテープでは録音時と再生時のアジマスのズレが音質の劣化となって現れます。
ナカミチのこだわり
ナカミチほどアジマスにこだわったメーカーは他にはありませんでした。
このCR-70は前述の通り録音前に録音ヘッドのアジマスを自動チューニングしてくれますが、さらに再生ヘッドのアジマス調整も手動ながら行うことができます。
この機能は、他のデッキで録音したテープや市販のミュージックテープを再生するときに使用することにより、テープに録音された音を100%引き出すことができます。

ナカミチには、1982年に発売され究極のカセットデッキとも称される『DRAGON』というモデルがありました。こちらは再生時のアジマス調整が自動化されています。
DRAGONは再生オートリバース機でしたから、走行が反転した際のアジマスずれをどう解消するかがポイントになっていました。それをNAACという自動アジマス調整機構を開発することで解決。
もちろん、NAACのメリットはオートリバースにとどまらず、他のどんなデッキで録音したテープでも最高の音質で再生することができるというカセットファンにとっての夢を実現するものでした。
CR-70の再生アジマス調整はDRAGONのように自動ではありませんが、アジマス調整ボリュームを動かすことで明らかに音質が変わるので、耳を頼りに最適ポイントを探り出すことは簡単です。
DR-70に再生自動アジマス調整がついたら最高なのでしょうが、どこかにマニュアル操作の余地が残っている方が趣味としては面白みがあるとも言えるでしょう。
利便性にも配慮
CR-70には標準装備でワイヤレスリモコンが用意されていました。
テープ走行系の操作はもちろん、本機のウリである再生アジマス調整もリモコンから出来るのが嬉しいです。リスニングポジションで音質を確かめながら調節できるので、正確なチューニングにも役立ったはずです。
テープのカウンターは、一般的なデッキでは単なる数字に過ぎませんが、本機に搭載されたリアルタイムカウンターは分秒単位の意味を持っていました。しかも、巻取り側と送り側のリールの回転速度差をもとにテープ残量を計算して表示するという凝ったもの。

ただし、テープの分数によって残量が変わってきますので、使用するテープの分数を選択するスイッチが付いていました。
あと、他社製のカセットデッキでは一般的な機能でしたが、テープの種類を自動判別するセンサーが装備されていました。カセットハーフについている検知孔によってタイプ1・2・4を判別する機能です。ちなみにタイプ3(フェリクロム)は対象外となっています。

データ
- モデル名:CR-70
- 発売:1985年(昭和60年)
- 定価:238,000円
- サイズ:W 435mm x H 135mm x D 306mm
- 重量:9.0kg
管理人のつぶやき
カセットデッキにハマっていた時期があり、オークションで何台か入手してはリリースしていました。CR-70もそのうちの1台で、録音時の自動キャリブレーションの精密さや、再生アジマスのマニュアル調整の威力に感動したものです。
保管場所の制約に加えてカセットデッキのようなメカ物は使っていないとゴム系部品の変形やグリスの固着など劣化要因になることから、複数同時保有は諦めることになりました。
CR-70も手放したくなかったのですが、最終的に手元に残っているのはナカミチのDRAGON1台です。
現在の使い方では再生時間が圧倒的に長く、録音する機会は滅多にないため、再生アジマス自動キャリブレーション機能付きのDRAGONを残すことにしました。