ナカミチ DRAGON – あらゆるテープを鳴らし切る究極のカセットデッキ

ユニークな高級カセットデッキによって一時代を築いたナカミチが究極のカセットデッキとして世に問うたマシン、それがDRAGONです。自動再生アジマス調整機構のNAAC(ナーク)は、あらゆるテープを最高の状態で再生することを可能にしました。

ナカミチ DRAGONとは

ナカミチ ドラゴン
ナカミチ DRAGON

オープンからカセットへ

カセットテープが誕生したのは1964年。オランダのフィリップス社が「コンパクトカセット」として規格を無償公開するや、欧米や日本のメーカーが続々と参入。当初は音声メモ用程度だったスペックは、改良に次ぐ改良によって音楽録音にも耐えうるメディアへと成長していきました。

カセット登場まで音楽録音用メディアの主役であったオープンリールテープは、2チャンネルステレオの一般的な仕様でテープ幅0.25インチ(6.35mm)、走行スピード38cm/秒でしたが、カセットではテープ幅は0.15インチ(3.81mm)、走行スピードは4.85cm/秒。テープ上に記録できる面積はテープ幅x走行スピードですから、両者を比べると歴然とした差がありました。記録可能面積は記録できる情報量に直結しますが、テープ幅と走行スピードは規格なのでいかんともしがたく、情報量を増やすには磁性体そのものやその塗布方法がカギを握ります。

磁性体の進化は、ざっくりいうと 酸化鉄 ⇒ クローム/コバルト系 ⇒ メタル(非酸化鉄)という経緯をたどり、並行して磁性体の充填密度や方向の均一性の向上など塗布方法も改良されていきました。

もちろんテープの進化と手を携えるようにカセットデッキも高性能化が進み、1970年代末にメタルテープが登場するや、カセットオーディオはハイファイのメインプレイヤーとしてのポジションを確固たるものにしたのです。

カセットオーディオの泣き所

「もうオープンデッキはいらない」とまで言わしめたメタルテープの登場によって完成を見たかのようなカセットオーディオ。しかし、そこには大きな泣き所が隠れていました。

カセットが最高のパフォーマンスを発揮できるのは、同一のデッキで録音・再生した時に限られるのです。録音と再生でデッキが異なると、しばしば籠ったような音、つまり高音が減衰した再生音になることは皆さんも経験があるのではないでしょうか。これは録音時のヘッドとテープの接触角度(アジマスといいます)と再生時のそれがズレていることから生じる現象で、「アジマス・エラー」と呼ばれます。わずかなズレが音質劣化につながるのです。

アジマス・エラーを回避するには、録音と再生で同じデッキを使うしかないわけです(厳密には、3ヘッド方式のデッキでは同一のデッキでもエラーが発生する場合があります)。

アジマス・エラーを解決したNAAC

ナカミチはアジマス・エラーに対する問題意識を非常に強く持っており、早くも1970年代からユーザーが自分でアジマス調整できる機能を提供していました。そして、アジマス調整を手動から自動へと進化させた究極形がDRAGONなのです。

ナカミチのデッキに自動アジマス調整が搭載された最初の機種は1979年発売の「660ZX」でした。この時のアジマス調整は、再生ヘッドに対して録音ヘッドのアジマスを自動的に最適化する、というもの。つまり、あくまで自己録再におけるパフォーマンスを最大化するのが目的でした。

それに対して、DRAGONに搭載されたNAAC(Nakamihi Auto Azimuth Correction)は再生ヘッドのアジマスを自動調整するという画期的なもの。つまり、どんなテープでも録音時のアジマスに再生ヘッドのアジマスを合わせこむことが実現、ついにカセットオーディオの泣き所が解消したのです。どんなデッキで録音したテープでも、また市販のミュージックテープでも、あたかも自己録再したかのように最高の音質を引き出すことができるのです。

ドラゴンのヘッドまわり
NAACを実現したヘッドとメカの一部

再生オートリバース機能を搭載

DRAGONには再生のみオートリバース機能が搭載されていますが、ここでもNAACが活きます。リバース動作の直後にNAACが作動し、リバースサイドでも最適なアジマスが保たれます。

ドラゴンのカセットホルダー

なお、ナカミチはオートリバース機のアジマス問題に別のアプローチで挑んだユニークなモデルも開発していました。一般的なオートリバースでは、ヘッドを回転させるロータリーヘッド方式が多かったのですが、ナカミチはヘッド回転に伴うアジマス・エラーを嫌い、なんとカセットテープそのものを反転させるという驚くべきメカを開発したのです。この機能を搭載したデッキはRX-202/303/505と3機種ありました。その独特の動作は「クルリンパ」などと呼ばれることもあるようです。

操作する悦びも提供

オートリバースやNAACといった機能の自動化は便利である一方、デッキに自ら働きかけて性能を引き出す、という操作する悦びもカセットファンがデッキに求めるものでしょう。

DRAGONでは録音時のレベル(感度補正)・バイアスをマニュアル調整することができます。ズラリとならんだツマミやスイッチがデッキとの真剣勝負へと誘うかのようです。

ドラゴンの操作ボタンとツマミ

DRAGONが唯一ではなかった

NAACの実現には、アジマス・エラーを検知する特殊な再生ヘッドとエラー補正のためのロジックおよびヘッドの駆動メカが必要。こんな凝った機能はまさにナカミチ・テクノロジーの独壇場かと思わせます。

ところが、再生時の自動アジマス調整機能をもったカセットデッキが他にも存在していました。それがマランツの「SD-930」です。アジマス調整機能の名称は「MAAC(Marantz Auto Azimuth Control)」。

MAACではヘッドのアジマス調整用に「ピエゾ素子」という電子パーツを採用することにより、一瞬にして調整が完了することを喧伝しています。ギア駆動式であるNAACは調整完了に数秒を要することと比べると大いにアドバンテージがあります。

マランツSD930
マランツ SD-930
MAACの解説
MAACではコンビネーションヘッドを採用

他の機能では、ノイズリダクションシステムとしてドルビーB/Cに加えてdbxを搭載していることが目を惹きます。オートリバース機能こそありませんが、価格的にもDRAGONの26万円にたいして15万円と半値弱。あたかもDRAGONキラーとして投入されたかのようです。

SD-930はDRAGONより1年遅れの1983年に発売されましたが、果たしで市場の評価はどうだったのでしょうか?想像するにそれほど売れなかったのではないでしょうか。常に中古品が流通しているDRAGONに対して、SD-930をネットオークションで見かけることは滅多にありません。

カタログスペック的には大いに魅力を感じるものの、ややポップ過ぎるデザインがマニア心に刺さらなかった可能性があります。あとはカセットオーディオにおけるブランド力も影響したのではないでしょうか。

データ

  • モデル名:DRAGON
  • 発売:1982年(昭和57年)
  • 定価:260,000円
  • サイズ:W450 x H135 x D300mm
  • 重量:9.5kg

カタログより

ドラゴンのカタログ
究極のデッキを宣言
ドラゴンのカタログ
ドライブメカにも贅を尽くしています
ドラゴンのカタログ
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管理人のつぶやき

テープをDARAGONにセットし、再生ボタンを押すとしばらくしてNAACが作動します。初めはモヤモヤしていた再生音が、「ギー、ギー」というNAACの動作音とともにまるで霧が晴れるようにクリアーになっていきます。まさにNAACの恩恵を感じる瞬間です。

その一方で、NAAC作動後のクリアーな音でテープの頭から再生できたらいいのに、と感じることも。巻き戻せばいいのでしょうが、それではちょっと興ざめです。

そこで。もしDARAGON復刻版が開発されるなら(あり得ないとは思いますが)、ぜひ「オートミュート(仮称)」機能をつけていただきたい。これをオンにすると、NAAC作動中はミュートがかかり、アジマス調整完了で自動的に再生開始時点に巻き戻し、そこでミュートが解除されて再生が始まる、というものです。これならテープの頭から完璧な再生が楽しめます。良いアイデアだと思いませんか?

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