1970年代後半のアメリカ西海岸の音楽シーンにあって、ひときわ爽やかであたたかい歌声を思い出させてくれる女性シンガー。80年代にはカントリーに転身し、最優秀新人女性ボーカリストにも選出されましたが、若くして天国に召されています。
ニコレット・ラーソン/Nicolette Larsonとは

デビューまでの歩み
ニコレット・ラーソンは1952年、アメリカのモンタナ州に生まれました。カリフォルニアへ移り住むと、リンダ・ロンシュタットやホイト・アクストンといったアーティストのバックシンガーとして活躍し始めます。やわらかで澄んだ歌声はミュージシャン仲間から高く評価され、やがて大きなチャンスをつかみます。
1978年、ニール・ヤングのアルバム『Comes a Time』に参加し、ハーモニーを担当。そこでの存在感が注目を集め、同年にはソロ・デビューの道を歩み始めました。
「Lotta Love」の大ヒット
デビュー・アルバム『Nicolette』(1978年)に収められた「Lotta Love」(邦題「溢れる愛」)は、ニール・ヤングが書いた曲をラーソンが歌ったものです。軽快なリズムと明るいアレンジに、彼女のやさしい歌声が重なって、全米シングルチャートで8位を記録。ゴールドディスクにも輝く大ヒットとなりました。70年代末のFMラジオで、このイントロを耳にしたリスナーは少なくなかったでしょう。
「Lotta Love」は、都会的で洗練されていながら、どこか素朴さを感じさせる曲です。派手さはなくとも、心地よく寄り添ってくれるような雰囲気が、ラーソンの音楽を象徴していました。
その他の代表曲
「Lotta Love」だけでなく、ラーソンは他にも魅力的な楽曲を残しています。
まず挙げたいのが「Rhumba Girl」(1979年)。こちらはアネット・トゥーニーが書いた曲で、デビュー翌年にシングルとしてリリースされました。軽快でラテンの香りをまとったリズムに乗せて、彼女の明るい歌声が弾むように響きます。チャート的には「Lotta Love」ほどではありませんでしたが、当時のライブでも人気の一曲でした。
続く「Give a Little」も忘れられません。1980年にシングル化され、ポップで親しみやすいメロディが印象的です。シンプルなテーマをストレートに歌う姿勢は、聴く人に温かさを届けました。
さらに「Let Me Go, Love」(邦題「愛にさよならを」)も代表的な楽曲のひとつです。これはマイケル・マクドナルドとのデュエットで、しっとりとしたAORバラード。ふたりの声が溶け合うハーモニーは、80年代初頭の西海岸サウンドを象徴するものでした。アメリカのアダルトコンテンポラリー・チャートでも上位に入り、彼女の幅広い表現力を示しています。
西海岸サウンドの中で
1970年代後半から80年代初頭の西海岸は、シンガーソングライターやAORが盛んで、多彩な音楽が生まれていました。ニコレット・ラーソンの音楽は、そうした流れの中で独自の居場所を見つけていました。
『In the Nick of Time』(1979年)、『Radioland』(1980年)といったアルバムでは、ドゥービー・ブラザーズのマイケル・マクドナルド、クロスビー&ナッシュといった豪華メンバーが参加。
洗練されたサウンドを背景に、彼女の歌声は常にやさしさと親しみを持ち続けていました。AOR的な都会の洗練と、カントリーやフォークに根ざした素朴さ。その両方を行き来できることが、彼女ならではの魅力だったのです。
幅広い活動と転身
ラーソンはソロの活動だけでなく、数多くのアーティストの作品にバックシンガーとして参加しました。ジェームス・テイラー、クリストファー・クロス、リンゴ・スター、ビーチ・ボーイズ……。彼女の声は、前に出すぎることなく、曲全体にやわらかな彩りを与えていました。
また、1980年代後半にはナッシュビルに拠点を移し、カントリー・シーンで活動を広げます。カントリーチャートにも挑戦し、さらにエミルー・ハリスやロス・ロボスとの共演、子ども向けアルバムの制作など、多彩な表現を見せました。
早すぎる別れ
しかし、ニコレット・ラーソンの人生は長くは続きませんでした。1997年、わずか45歳で急逝します。突然の別れは、多くのファンや仲間のミュージシャンに衝撃を与えました。
ジャクソン・ブラウンやエミルー・ハリスらが参加した追悼コンサートは、彼女の人柄と音楽がどれだけ愛されていたかを物語っています。
ニコレット・ラーソンは、大スターというよりは「西海岸の隠れた宝石」といった存在でした。派手さはなくとも、穏やかに心に寄り添う音楽。そこにこそ、彼女が残した価値があります。

管理人のつぶやき
本文中には「西海岸の隠れた宝石」なんて気取った表現をしてしまいましたが、まさに知る人ぞ知るアーティスト。そうした地味なアーティストの中古レコードは状態の良いものが多いようです。人気アーティストのヒットアルバムは、聴きこんだせいで磨り減って音割れがしたり、雑に扱われて傷ついているものがかなりあるので要注意です。
管理人が持っているニコレットのアルバムは『Radioland』と『In the Nick of Time』。いずれもオークションで入手した中古レコードですが、盤質はとても良好。しかもどちらも500円以下で落札できました。デビューアルバムの『Nicolette』は未入手ですが、ニコレット最大のヒット作とあってかやや先の2作品よりは高値が付くようです。1,000円以下なら即ゲットで。


