チェリーは日産初のFF車として登場しましたが、先進的なメカニズムよりもむしろユニークなスタイルによって記憶に残る一台といえましょう。セダンもありましたがユニークさが際立つクーペを取り上げます。
日産 チェリー(初代/E10型)とは
プリンス自動車の流れを汲む日産初のFF車
プリンス自動車は名車「スカイライン」や「グロリア」を生んだ技術力に秀でた名門メーカーでしたが、経営難から1966年に日産に吸収合併されました。
チェリーは日産として初めての量産FF車としてデビューしますが、開発は合併前のプリンス自動車によって進められていました。それまで高級車中心のラインアップしか持たなかったプリンスが、大衆車市場にも打って出ようと企画されたクルマでした。
横置きエンジンの真下にトランスミッションを配置するいわゆる「イシゴニス式」レイアウトによって、高いスペース効率を実現。プリンスらしい高い技術力が発揮されていました。ちなみにイシゴニスとは、FF小型車の祖ともいえる「BMCミニ」を設計したアレックス・イシゴニスのことです。
サニーのちょい下を担う
日産の乗用車ラインアップでボトムに位置していたのがサニーでした。ライバルのトヨタはカローラを擁し、サニーよりも少し豪華、少し余裕のあるエンジンを謳って激しくシェア争いを繰り広げていました。
対抗する日産も、初代サニーの1,000ccエンジンから1970年登場の2代目では排気量を1,200ccに拡大。トヨタの土俵に乗ってガチ勝負することになりました。
そこでその下のマーケット、主にクルマを初めて所有する若者をターゲットとするクルマとしてチェリーが位置付けられたのです。トヨタならパブリカのセグメントですね。
サニーがベーシックなファミリーカーだとすると、チェリーはヤング向けの味付けがなされていました。
ユニークなデザイン
ひと目見たら忘れられないスタイルをしています。特徴的なのはリア。「ケンメリ」スカイラインにも採用されていた、サイドウィンドウの後端をJ字型に処理しCピラーを広くとる独特のデザインをさらに先鋭化したかのようなスタイル。
リアウィンドウは面積こそ広いもののほとんど上向きと言えるほどのユルい傾斜。これらが相まって後方視界は現金輸送車並みと言ったら言い過ぎでしょうか。
クーペらしからぬ積載量
後方視界を割り切ったこのスタイルには、大きなメリットもありました。それは、クーペでありながらワゴン並みの荷物積載スペースが確保できたことです。
若者のクルマへのニーズを想像すると、たくさんの荷物が詰めることはレジャー用途に好適です。海へ山へとアクティブにクルマを使いまわす若者にとっては、商用車くさいワゴンやカッコはいいけど狭いスポーティーなクーペとは一線を画したこのスタイルはまさに「欲しかったクルマ」だったのではないでしょうか。
データ
- 販売期間:1970年(昭和45年)~1974年(昭和49年)
- エンジン:直4OHV 988/1,171cc
- ホイールベース:2,335mm
- 全長:3,690mm
- 全幅:1,490mm
- 全高:1,315mm
- 重量:665~695Kg ※サイズ・重量はクーペモデル
管理人のつぶやき
決して「カッコイイ」スタイルではないのに、不思議と魅かれる独特のデザイン。これは大きく好き嫌いが分かれるでしょうね。
かくいう管理人も今でこそ味わいのあるスタイルだと受け入れていますが、若いころは「変なクルマ」「猫背でカッコ悪い」と思っていたことを白状します。
趣味嗜好が年齢に応じて変わるのは良くあること。子どもの頃苦手だった食べ物が大人になったら好物になってた、なんてみなさんも経験していませんか?ちなみに管理人はミョウガが大好物ですが子どもの頃はさっぱりでした。
しかし若者向けのクルマが年配者にウケてもビジネス的にはあまり意味ないのかもしれませんが。