米国・ピッカリング社はモノラル時代からカートリッジを手がける老舗メーカーです。同社のカートリッジは伝統的にMI型が主力でしたが、XSV-3000はMM型。サウンドにも型式の違いが現れています。
ピッカリング XSV-3000とは

最も古い歴史を誇る
シュアやエンパイアなどアメリカの大手カートリッジメーカーのなかでも、最も古い歴史を誇るのがピッカリング社です。LP盤が誕生する以前の、SP盤の時代からカートリッジを手がけていました。
同社の社長の名前をとったスタントン社はピッカリング社とは兄弟関係で、一部カートリッジの針には互換性もありました。ピッカリングはもっぱらコンシューマー向け製品を手がける一方、スタントンは放送局やレコーディングスタジオなどプロ向け、というすみ分けになっていました。
カートリッジの型式
カートリッジは発電方式によっていくつかの型式に分類できますが、主流は磁石とコイルを使用する電磁式で、そのうち磁石を固定してコイルを動かすのがMC(ムービング・コイル)型、その逆にコイルを固定して磁石を動かすのがMM(ムービング・マグネット)型、というのがざっくりした分類です。
MM型はさらに細かく分類でき、カンチレバーの根元に磁石が置かれているタイプが文字通りのMM型ですが、磁石の替わりにパーマロイなどの磁性金属を用い、本体に固定された磁石からの磁束によって間接的に磁石のように振る舞うようにしたものがMI(ムービング・アイアン)型またはIM(インデュースト・マグネット)型、となります。
音の傾向は、一般的にはMC型はワイドレンジで繊細かつ音場再現に優れる、MM型はダイナミックだが高音にやや中だるみがある、MI型やIM型はソフトタッチ、と言われることが多いようです。ただ、実際には個々の製品によって構造や素材など、メーカーによる音創りのノウハウが投入されるため一概には言えないところです。
MM型のXSV-3000
SP時代からIM型カートリッジが伝統だったピッカリングですが、ステレオ時代になるとV15というMM型を初めて開発、骨太で腰の座ったサウンドが高く評価されました。
その後、4chステレオがブームになるとXUV-4500QというCD-4方式に対応したMM型カートリッジを発売。CD-4に対応するため超高域までレンジを伸ばしたこのカートリッジは、当然ながら2chステレオもワイドレンジで再生できる高性能カートリッジとして注目されました。
2chステレオ専用機として開発されたXSV-3000もMM型で、XUV-4500Qのノウハウが活かされた現代的な粒立ちのよいサウンドが特徴。この時代のピッカリング社の中核モデルでした。

カンチレバーとスタイラスチップ
カンチレバーは太めのアルミ合金製で比較的短く、先端をつぶして0.2mm角のステレオヒドロンと称するラインコンタクト針が埋め込まれています。針圧1.0gで動作するハイコンプライアンス設計となっています。

スタイラスアセンブリーにはレコード再生中にホコリをはじき飛ばすという「ダスダマチック」なるブラシが装着されています。このブラシの根元にはピボットがついているため跳ね上げておくこともできますが、簡単にブラシを外すこともできるため、音への影響が気になる場合には外して使うことができます。
シュアのV-15typeⅣにも似たようなブラシが付いていますが、あちらはダイナミックスタビライザーという名称のとおり、反りのあるレコードへの追従性を改善したり静電気を逃す効果も狙った凝ったものでしたが、こちらは文字通り単なるホコリ飛ばしです。
ちなみに、ダスタマチックを使う時には針圧を1.0gプラスします。

金属製のボディとベース
ボディと、ヘッドシェルに接するベースには金属が採用されています。プラスチックを使わないソリッドな構造は、カッチリとした音創りに影響していると思われます。
ベースは薄く、またヘッドシェルとの接触面積が小さいため、ヘッドシェルの鳴きを抑える効果は期待できません。ヘッドシェル自体に鳴きの少ないものを使うことが望ましいです。

データ
- 発売:1976年(昭和51年)
- 定価:40,000円
- 周波数特性:10Hz~30kHz
- 出力電圧:5mV
- 針圧:0.75~1.5g(標準1.0g)
- 針先:0.2mm ステレオヒドロン
- カンチレバー:アルミパイプ
管理人のつぶやき
お金もないくせにオーディオにハマっていた高校・大学時代の管理人にとって、カートリッジひとつ買うのも清水の舞台から飛び降りるような一大イベントでした。
そんななかでピッカリングは選択肢には入りませんでした。というか、まったく眼中になかったというのが正直なところ。当時のオーディオ業界は、ジャンルにかかわらずニッポンの大小規模様々なメーカーがひしめき合っており、カートリッジでもデンオン(現・デノン)を筆頭にオーディオテクニカ、テクニクス、ソニー、ビクター、ヤマハ、グレース、グランツ、サエク、サテン、ジュエルトーン…などなどもう多士済々。割高なわりに国産と比べてスペックが見劣りする海外ブランド製品には目配りする余地がなかった、というのが実情でした。
写真のXSV-3000は最近手に入れた未使用品ですが、これが実にイイ。「半世紀も前のカートリッジがまともに鳴るわけないだろう」と思う方もいるかもしれませんが、保管状態さえ良ければダンパーの劣化は(自分の駄耳では)感じられず、往時もかくや、という素晴らしいサウンドを奏でてくれます。
あの頃は見向きもしなかったピッカリングよ、若気の至りだったということでどうか許してください。


