サンスイ AU-D907 – 黒くて重い伝統を受け継ぐ名機

今はなきオーディオ専業メーカー、サンスイのプリメインアンプです。サンスイアンプの代名詞的な回路である「ダイアモンド差動回路」を搭載したAU-Dシリーズの最上級機種として1979年に発売されました。

サンスイ AU-D907とは

サンスイのアンプは重い

サンスイはトランスメーカーから出発し、1960年代に始まるオーディオブームにのって、特にアンプを中心に人気を博したメーカーでした。

「サンスイのアンプは重い」と言われていましたが、それは、良い音のためには力の源である電源部の充実が欠かせない、というポリシーから大型で高性能なトランスを搭載していたことが大きな要因です。トランスはいわば鉄の塊ですから、アンプの重量を大きく左右します。

サンスイのプリメインアンプ AU-D907
サンスイのプリメインアンプ AU-D907

07シリーズのフラッグシップモデル

サンスイのプリメインアンプは型番に「07」のつくシリーズが有名です。初代となるAU-607/707は1976年の発売で、実際に音楽をならした時の音質に大きく影響する動特性に着目。静的な特性改善に有効なNFB(ネガティブフィードバック)に頼る設計から脱し、NFBをかける前の裸特性の改善に注力。最小限のNFBとすることで優れた動特性を獲得し、低域から超高域まで歪みの少ないダイナミックな再生を実現。それまでやや低迷していたサンスイアンプの評価を一気に引き上げることになりました。

AU-607/707の成功に勇気づけられ、上級機のセグメントでもシェアアップを狙って開発されたのがこのAU-D907です。Dのつく新シリーズは1979年に登場しましたが、この「D」はダイアモンド差動回路からきているもので、先代で追求した動特性の向上をさらに推し進める画期的な回路でした。

ダイアモンド差動回路搭載のイコライザー

D907のイコライザーアンプは音質に悪影響をおよぼす入力コンデンサーを排除したダイレクト・カップル方式。初段はローノイズ、ハイ・gm、デュアルFET使用の差動入力回路、2~3段目にはダイアモンド差動回路を搭載。電流マージンの大きな出力段と対称形回路構成によって大きなダイナミックレンジと動的歪の大幅低減を実現しました。

高品位なMCヘッドアンプ

世界初の採用となるプッシュプル入出力回路による対称回路構成で、入力はイコライザーアンプと同様にダイレクト・カップル方式を採用した、単体製品にも匹敵するローノイズかつ高品位なMCヘッドアンプを搭載。

MM型よりも繊細で高品位な音がするとされたMCカートリッジの性能を余すところなく引き出しました。

AU-D907のフロントパネル
フォノ入力は2系統 MCポジションでは高品質ヘッドアンプが作動

サンスイ伝統の強力な電源部

大型のトランスと大容量コンデンサーで構成される強力な電源部がサンスイアンプの特徴のひとつ。

トランスはEI型とトロイダル型の2トランス構成。コンデンサーはオーバル型大容量のものを4本搭載。トータル7電源方式という贅沢な構成。

ヒートシンクも肉厚のアルミを使った重量級のもの。最上級機種にふさわしい強力電源部です。

物量をしっかり投入された本機の重量は20Kgを超えるものでした。

2トランス4オーバルコンデンサーの強力な電源部
2トランスに4オーバルコンデンサーの強力な電源部 ヒートシンクはアルミダイキャスト製

フラットアンプを飛ばして音質向上

フラットアンプを飛ばして信号経路をシンプル化することができるジャンプスイッチ付き。よりピュアな音を追求することができます。

オンにするとゲインが16dB下がるため、ボリュームを上げる必要があります。

操作感の良いレバー式スイッチ
操作感の良いレバー式スイッチ

機能性に優れたレバー式スイッチ

操作時の感触が良好なレバー式スイッチはデザイン面でのアクセントにもなっています。

ちなみに後継機となるAU-Fシリーズからはプッシュボタンに変更されて平坦な印象になってしまいました。プッシュスイッチは押されているかどうかが分かりにくいため、LED表示などを併用する場合があります。

レバースイッチはポジションが一目瞭然なので機能的にはプッシュ式よりも理にかなっていると言えます。

データ

  • モデル名:AU-D907
  • 発売:1979年(昭和54年)
  • 定価:142,000円
  • 実効出力:100W + 100W(8Ω)
  • 全高調波歪率:0.008%以下
  • サイズ:W 430mm x H 168mm x D 428mm
  • 重量:20.8kg

カタログより

1978年版プリメインアンプ総合カタログ
AU-D907
AU-D907解説

管理人のつぶやき

ラジカセを卒業し、憧れの単品コンポの世界(泥沼?)に踏み込む第一歩になったのはサンスイのAU-D607という、Dシリーズの末弟でした。

当時のオーディオ雑誌では、同クラスのアンプの中では飛びぬけているという評価でした。定価69,800円という入門機にもかかわらず、2トランスの強力電源、MCヘッドアンプ搭載、そしてもちろんパワーアンプ部にはダイアモンド差動回路が採用されていました。

ほかのメーカーのアンプとじっくり比べたことがなかったので正直なところ雑誌の評価を鵜呑みにして購入したわけですが、実際に音には満足していました。

ただ、オーディオ沼とはよく言ったもの。のちにD607を下取りに出して上位機種のD707の中古を入手したのでした。D707はカリスマ評論家だった長岡鉄男氏が高く評価していたもの。自転車の荷台にアンプをのせて秋葉原の中古オーディオショップから下宿まで運んだのを思い出します。

D607からD707へのアップグレード体験は鮮烈なものでした。D607もそれだけ聴いていれば十分に良い音だったのですが、D707は低音の迫力やダイナミックレンジの広さが違いました。一口に言えばスケール感が全然違ったのです。カタログスペックには表れない音の違いにオーディオの奥深さを感じたものです。そして「いつかはクラウン」ならぬ「いつかは907」という欲望が潜在意識にインストールされたのでした。

サンスイアンプとの付き合いは当時からのもので、数年前についに中古で入手したD907の限定モデル『AU-D907Limited』が今でも素晴らしいサウンドを奏でてくれています。

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