サンヨー MR9600 – オーディオスペックの名に恥じない高音質ラジカセ

地味なブランドイメージとは裏腹に、他社とはひと味違うパンチの効いた製品を提案していたサンヨー。MR9600も可動式ツィーターを装備するなど70年代ラジカセのなかではトップクラスの高音質マシンでした。

サンヨー MR9600(REC9600)とは

サンヨーのフラッグシップMR9600

サンヨーの尖ったラジカセ

サンヨー(三洋電機)は総合家電メーカーとしては松下や日立、東芝より小粒な準大手といった印象でした。ブランドイメージもどちらかといえば地味。

しかし、ことラジカセにおいてはユニークで尖った製品を輩出しており、「おしゃれなテレコ MR-U4」のようにトレンドセッターとなったモデルもありました。モノラルラジカセではコアキシャルスピーカーを搭載した1977年発売のMR6200。大型ラジカセ全盛期には20cm口径のスーパーウーハーを専用アンプでドライブする3D方式搭載のMR-X20(愛称ビッグベン)。バブルラジカセ時代にも迫力の重低音を追求したズシーン(ZooSCENE)シリーズを展開しました。

70年代フラッグシップ

MR9600は1978年に発売された当時のフラッグシップマシンです。カタログには「コンポに迫るオーディオスペック」と謳われています。

各社のステレオラジカセは、上位機種ではおしなべて16cmウーハー+ツィーターというスピーカー構成が採用されていました。本機も同様のスペックながら、ツィーターには水平方向の角度を可動式としたスイベリング機構を採用し、リスニングポジションにあわせて最適な向きにすることができました。低音と違って高音は指向性が鋭いのでとても有効です。他社にはないユニークな機構でした。

NR9600ツィーター
角度が変えられるツィーター

パワフルな低音には秘密が

ウーハーには16cm口径のデュアルエッジユニットを採用。量感のある低音は同クラスのラジカセの中では突出した存在でしたが、これには秘密がありました。アンプ回路にラウドネス機構が組み込まれていたのです。つまり常時ラウドネス・オンの状態というわけです。

MR9600スピーカー
高音質2ウェイスピーカー

ラウドネスとは、小音量時に低音と高音が聴こえにくくなるという人間の聴覚を補うために低音と高音を増強する機能のことです。コンポオーディオのように、スピーカーのサイズやボックス容量に余裕があればラウドネスは通常はオフ、深夜など小音量で再生するときにだけオンにする、という使い方が普通なのですが、ボディサイズに限りがあるラジカセでは、通常音量であっても低音不足になりがちなので、ラウドネススイッチは常時オンで使いたくなります。

MR9600にはラウドネススイッチが付いていません。なので、ラウドネスなしなのにすごい低音が出る、と誤解される向きがあると思われます。カタログのスペック表を見るとラウドネス内蔵であることがわかります。当時のサンヨーのラジカセでは、トーンコントロールがバス・トレブル独立式のモデルにはもれなくラウドネスが内蔵されていたようです。

もちろんMR9600の迫力ある低音はラウドネス効果だけでなく、高性能なユニットやガッチリしたつくりのボディにもよるところですが。

スペック表
スペック表より

大型レベルメーター

MR9600のデザイン面での特徴は、大型の左右独立式レベルメーターがカセットホルダー下にレイアウトされていることです。

レベルメーター
大型のレベルメーター

メーターの搭載位置は、トップパネル内かチューニングスケールの横、もしくはカセットホルダーの上のように、本体の上部というのが一般的なので、MR9600のレイアウトには驚かされます。このレイアウトになったのは、カセット駆動メカが倒立式であったためやむを得なかったのかもしれません。

ソニーのCFS-686のように正立式メカであればカセットホルダー上部にメーターを配置することができたかもしれません。しかし、このユニークなレイアウトも見慣れると安定感があってなかなかよいものです。

ワイドなチューニングスケール

もうひとつデザイン面の特徴をあげると、チューニングスケールが非常にワイドなこと。

チューニングスケール
ワイドなチューニングスケール

針の走行長を測ってみると188mmありました。ソニーのCFS-686もワイドなスケールを持っているのですが、それでも針の走行長は150mmです。

さらに、MR9600のダイヤル機構には単品コンポのチューナー並みにフライホイールが採用されており、ダイヤルを回す感触が素晴らしいです。こんなところにも「オーディオスペック」の意気込みが感じられます。

高級感あるトップパネル

コンポを思わせるアルミ製のトップパネルには、シルバーで統一されたボタンやレバー、ノブが並んでいます。

再生モードはモノ・ステレオ・ワイドの3段切り替え。テープセレクターはフェリクローム対応の3ポジション。録音レベルはオートのほかマニュアルモードも選択できます。

トップパネル
ファンクションスイッチは2系統

ボリュームノブは同軸タイプ。トーンコントロールはバス・トレブル独立式です。上述のとおりラウドネススイッチはありませんが、アンプ内蔵で常時オンになっています。

トップパネル
ノブのデザインにも高級感

隠れた名機

MR9600の発売当時の売れ行きはどうだったのか知る由もありませんが、サンヨーのブランドイメージや販売店のネットワークからしてそれほど売れなかったものと推測します。ネットでなんでも買える現代ならば、音の良さが口コミで広がって人気化してもおかしくなかったと思いますが、当時は知る人ぞ知る的な存在で終わってしまったのではないでしょうか。

そんな稀少性も手伝って、ネットオークションでは高値安定のモデルとなっています。

隠れた名機MR9600

データ

  • モデル名:MR9600
  • 発売:1978年(昭和53年)
  • 定価:74,800円
  • サイズ:W516 x H306 x D131mm
  • 重量:7.6kg(電池含む)

カタログより

サンヨーラジオラジカセ総合カタログ
総合カタログ(昭和53年)
カタログ
オーディオスペックを誇る
カタログ
ヤングではなくオジサンをフィーチャー

管理人のつぶやき

MR9600発売当時、管理人は中学生でしたけれども、サンヨーのラジカセやラジオは眼中になかったのが正直なところ。ラジカセだとソニー、アイワ、パイオニアあたりに目が向いていました。

今さら「隠れた名機」などと称賛するのもなんか後ろめたい気がしますが、実際に手にしてみると本当に良く出来たラジカセだと思います。何といっても音がイイ。そして大型メーターの存在感。

あと、チューニングスケールの照明がなんとグリーンなのです。普通は電球色だと思いますが、意表を突いたグリーン。実にクールです。

ベッドサイドに置いてリスニングするには、向きを変えられるスイベリングツイーターがなかなか便利です。

残念ながらもう消滅してしまったサンヨー。とても良いお仕事をされていました。今さらですが心より感謝です。

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