1960年代後半に日本初のラジカセが登場してからわずか10年ほどの間に、ラジカセは性能・機能とも驚くほどの進化を遂げました。特に大きかったのは1970年代半ばに始まったモノラルからステレオへという高音質化の流れです。ドルビーNRの搭載はその流れをさらに加速するものでした。
CFS-686(ステレオXYZ)とは
ソニーのステレオラジカセ、ステレオジーゼット CFS-686です。XYZと書いてジーゼットと読ませます。発売は1978年、定価は69,800円。
先に登場して人気を博したジルバップとは別の製品ラインです。とはいえ、ジーゼットとしての後継モデルは存在しておらず、ジルバップのようにシリーズ化されたわけでもありませんでした。
ドルビーNRを搭載
本機の最大の特徴といえるのがドルビーNR(ノイズリダクション)システムを搭載していたこと。テープに特有の「サーーー」という高域のノイズを抑制するシステムで、当時すでに単品コンポのカセットデッキでは事実上の標準機能になっていましたが、ラジカセに搭載されたのはソニーにおいてはこのモデルが初めてでした。
ドルビーNRの効果は絶大で、耳につく高域のノイズが大幅に減少します。一度使うともう手放せない機能と言って良いでしょう。
ドルビーNRを搭載するということは、テープ走行系や録音再生アンプを含めたデッキ部のトータル性能が高いことの証です。
カセットデッキを彷彿とさせる大型のレベルメーターの中央に「DOLBY NR」の文字入りランプが設置されています。よくある赤色の小さな丸形LEDにしなかったことで、ドルビーNR搭載機種であることがしっかりアピールできています。デザイン的にもこれは成功しているといえるでしょう。
高性能テープに対応
テープセレクターはノーマル、フェリクロ、クロームの3ポジション。
フェリクロは同じくソニーが先陣を切って発売した「Duad(デュアド)」テープに対応したポジションです。異なる特性の磁性体を二層塗りするという凝った造りのテープで、低音に強いノーマルと高音に余裕があって歪の少ないクロームの良いとこどりを狙ったテープでした。
メタルテープが登場するまでの短い間ですが、いちばん高性能なテープと位置付けられていました。
多彩な録音モード
録音時に一時的な無音部をつくるためのRECミュートスイッチを装備。
また、録音レベル調整をオート、マニュアル、リミッターの3種類から選ぶことができました。
ラジオのトーク番組などの録音はオートモードが最適ですが、FM放送やプレーヤーを接続してレコードを録音するなど、高音質を狙う時にはマニュアルモードがおすすめです。オートモードだと、音楽レベルの強弱が不自然に圧縮されてしまうからです。もちろんドルビーNRはオンで。
リミッターは珍しいモードです。マニュアルでレベルをセットしてからリミッターモードに切り替えることで、不意の大入力時には文字通りリミッターが自動的に作動して入力オーバーになることを防ぐというものでした。
ダイナミックレンジが広くレベル変動の激しいオーケストラや、屋外での生録時に有効な機能と言えますね。
このようにデッキ部の機能がとても充実したモデルだったのです。
視認性と操作性を両立したスラントパネル
スラント(斜め配置)した操作パネルがシャープなイメージを醸し出しています。
ジルバップもそうでしたが、それまでのラジカセの操作パネルは真上を向いた配置(つまりフロント側からは見えづらい)になっており、メーターなど一部機能のみがフロントパネル側に切り出されているというものでした。つまり、視認性と操作性がいわば分断されていたわけです。
ジーゼットではスラントパネルを採用することで分断問題を回避。それがデザイン的にもシャープで斬新なイメージづくりに成功しているという、秀逸なアイデアでした。
カセットホルダーは正立式。カセットテープを上下さかさまにする必要がないのでラベルが読みづらくなったり、早送りと巻き戻しを逆に操作してしまったりということがありません。
イジェクトはダンプ機構がついているため、ホルダーがゆっくりと開きます。これも、カセットデッキに迫ろうという高級ラジカセならではのフィーチャーでした。
ただしジーゼットでは「ジャー」というギア音のような動作音がやや目立ち、高級感を若干スポイルしています。
データ
- モデル名:CFS-686
- 発売:1978年(昭和53年)
- 定価:69,800円
- サイズ:W 505mm x H 325mm x D 130mm
- 重量:7.8kg(電池含む)
カタログより
管理人のつぶやき
ジーゼットは憧れのラジカセでした。なんといってもカッコよかったです。しかもドルビーNR付きというカセットデッキ並みの高機能。
自分が持っていたラジカセは同じくソニーの「ゴング CF-6300」という格下のモデルでした。ジルバップには手が届かなかったのですが、話題のDUADテープが使えるフェリクロポジション付きだったり、デッキ部が正立型レイアウトだったところが気に入って購入。
しかし、その後に登場したジーゼットと比べると月とスッポンのようでガッカリしました。ドルビーNRがない、マニュアル録音ができない、カセットホルダーはダンプ機構がないので乱暴に開く、スピーカーは12cmフルレンジと、ジーゼットの16cmウーハー+ツイーターの2ウェイには全くかなわない、など…
ただ、興味の対象がそろそろ単品コンポに向かいつつあったので、ジーゼットに手を出すことはしませんでした。