ソニー TA-F555ESXⅡ – 物量投入を極めたヘビー級プリメインアンプ

オーディオ業界にもバブルの影響が色濃かった1980年代後半。ソニーはそれまで不振だったプリメインアンプのカテゴリーで勝負を賭けるべく正攻法の物量投入型モデルを相次いで投入して人気回復。本機は2台の大型パワートランスを搭載した超ヘビー級の最上位モデルです。

ソニー TA-F555ESXⅡとは

ソニーTA-F555ESX2プリメインアンプ
TA-F555ESXⅡ プリメインアンプ

アンプのトランジスタ化をけん引したソニー

日本でトランジスタ式のアンプが登場したのは1960年代前半のこと。ラックス(現ラックスマン)やトリオ(現JVCケンウッド)が果敢にチャレンジしていましたが、音質的にはまだまだ真空管には遠く及びませんでした。

そんな中、それまでのゲルマニウム式トランジスタに換えて高性能なシリコン式トランジスタを全面的に採用した初のプリメインアンプ TA-1120がソニーから1965年に発売されます。ここにトランジスタ式アンプの性能は大きく引き上げられ、ついに音質で真空管に追い付いたと高く評価されました。

1973年には普及価格帯のTA-1150が大ヒットし、ハイファイアンプにおけるソニーの地位を確立。さらに、ソニーはバイポーラトランジスタをはるかに凌ぐ特性を持つV-FETを独自開発し上位モデルに採用するなど、増幅素子の面からトランジスタ式アンプの性能向上に大きく貢献しました。

アンプの軽量化にも邁進

いっぽう、増幅素子と並んでアンプの音質を大きく左右すると言われる電源部にも独自技術を投入。トランスと比べてレギュレーションに優れハムノイズが発生しないうえ軽量コンパクトなパルス電源を開発し、一部モデルを除いて普及機から上級機にまで幅広く採用しました。

さらに、パワートランジスタの放熱用ラジエーターに従来からのヒートシンクに比べて軽量化が可能なヒートパイプを採用。これは特殊な液体を封入した金属製パイプに薄型の放熱フィンを組合わせたもので、液体の気化熱を利用することで効率的な冷却が可能になるとともに、回路レイアウトのうえでも自由度が増すというメリットのあるものでした。

こうした先進技術がもたらした軽量化により、1970年代後半から80年代前半までのソニーのアンプの多くは、重量10kgにも満たないライト級のラインアップとなっていました。

ソニーアンプ冬の時代

しかし、「アンプは重いほど音が良い」という経験則&信仰はオーディオマニアの間に根強く、そうしたマニアの耳にはソニーの軽いアンプの音は物足りなく響いたのでした。

ソニーもそのことには気づいていたのでしょう。1982年発売のTA-F555ESではパルス電源を廃止、コンベンショナルなトランスを使った電源に回帰しています。以後、TA-F777ESでは大型ヒートシンクを採用するなどオーソドックスな造りに路線変更。重量も他社並みになりました。

しかし、相変わらず他社との差別化に拘るあまり、一般的にはフロントパネルの右または中央部に配置されるボリュームつまみを左側に持ってくるなど、違和感にあるデザインとなっていました。もっとも、信号の流れをシンプル&ストレートにするためそのようなレイアウトを採用した、というのがソニーの弁でしたが。ただ、これも保守的なマニアからは不評を買いました。

正攻法に徹して起死回生

バブル時代の1986年、突如としてソニーらしからぬアンプが登場します。TA-F333ESXと名付けられたそのプリメインアンプは、重量なんと18.6kg。パネルデザインも奇をてらったところの一切ない、むしろクラシカルとさえ感じられるオーソドックスなもの。

オーソドックスなパネルレイアウト
オーソドックスなパネルレイアウトと機能

この重量は同価格帯(79,800円)のアンプのなかでは抜きん出て重いものでした。これは大型トランスの採用もさることながら、ソニーが「Gシャーシ」と名付けた複合素材による成型品の底板によるところが大でした。GシャーシのGはスペインの最南端にあるジブラルタル半島から取ったもの。Gシャーシの主要素材である炭酸カルシウムと同じ石灰岩でできた自然の要塞であるジブラルタル半島にちなんだものです。

回路はパワーアンプとフォノ・イコライザーの2アンプというシンプルな構成。カートリッジセレクターはMM/MC40Ω/MC3Ωの3ポジションとアナログ対応にも手抜きがありません。

アナログレコード対応も万全
アナログレコード対応も万全

パワーアンプ部にはスイッチング歪やクロスオーバー歪を低減するスーパーレガートリニア回路を採用していますが、これはひと頃流行したバイアス可変式の疑似A級とは異なり、固定バイアスによるオーソドックスな方式です。

ツマミやノブはムクのアルミから削り出した高品位なもの。ハリボテのものとは手触りが違います。

アルミ削り出しのノブやツマミ
アルミ削り出しのノブやツマミ

上位機種には大型ツイントランスを搭載

上位機種の555ESXには333ESXに搭載されたものと同じサイズのトランスが2台採用されました。このため重量も26kgと、20万円以下のアンプでは破格の超ヘビー級アンプとなりました。

電源回路はS.T.D電源と呼ばれ、Aクラス段とパワー段それぞれの電源に独立した整流回路を設けるもの。大出力時にも安定的な増幅動作を可能としています。

大型ツイントランスに大容量コンデンサー
大型ツイントランスに大容量コンデンサー

1987年にはESXⅡへとシリーズが更新されています。好評だったオリジナル機の細部をリファインしより完成度を高めたもので、重量も若干アップ。555ESXⅡは28kgとなり、歴代のESシリーズでも最重量のアンプとなっています。

データ

  • モデル名:TA-F555ESXⅡ
  • 発売:1987年(昭和62年)
  • 定価:128,000円
  • 実効出力:120W + 120W(8Ω)
  • 高調波歪率:0.002%以下(10W, 8Ω)
  • サイズ:W470 x H166 x D436(mm)
  • 重量:27.8kg

カタログより

ESシリーズカタログ
ESシリーズカタログ
アンプラインアップ
333ESXⅡが売れ筋モデル
Gシャーシと電源部の解説
Gシャーシと電源部の解説

管理人のつぶやき

1970年代半ばより、プリメインアンプのマーケットリーダーはサンスイだったと言えるでしょう。普及価格帯に607、フラッグシップに907、その中間に707を配した松竹梅フォーメーションを確立、他社からベンチマークされていました。

しかしサンスイの牙城を崩すのは容易ではなく、松竹梅3モデルが維持できずにラインアップを整理するメーカーが多かったです。

ソニーもしかり、で、607にあたる333とその上の555を残し、フラッグシップにあたる777は1983年のTA-F777ES一発だけで諦めてしまいました。その後、1994年の新シリーズでTA-FA7ESが登場しますが、これは555ESJの後継機です。1994年、サンスイのフラッグシップはAU-α907XRでしたが、これに対抗するモデルはソニーからは出てきませんでした。経営的にはもうだいぶ厳しくなっていた頃ですが、サンスイがずっと松竹梅フォーメーションを守り続けたのは凄いことです。

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