軽自動車のパワー競争にガチで参入したスズキの力作です。目を惹くのは弾丸を思い起こさせるくさび型のスタイル。デザインの巨匠、ジウジアーロが関わったというのも頷けます。
ジウジアーロのエキス入り
スズキの軽自動車フロンテの3代目モデルにラインアップされたクーペです。1971年9月発売。
ホンダがN360で火をつけた軽自動車のパワー競争に参入すべく、スズキが放った「弾丸」がこのモデルです。
低く構えたノーズに大きく傾斜したフロントガラス。三角窓を廃止してスッキリしたサイドビュー。
車高は1,200mmと、当時の軽自動車のなかで一番低く抑えていました。
まるでスポーツカーと呼びたくなる尖がったこのスタイルは、かのジョルジエット・ジウジアーロの基本設計をもとに社内デザイナーがブラッシュアップしたもの。
もっとも、ジウジアーロの案はクーペではなく2ドアセダンで、車高も高かったようです。巨匠のデザインをそのまま受け入れず、自社のコンセプトにこだわって手を加えたところにスズキの矜持を感じますね。
徹底したスポーツカー指向
スポーツデザイン優先のため、ベースとなったフロンテにはあった三角窓が廃止されています。
また、ステアリングには体型なあわせて最適なポジションを得ることができるチルト機構を採用。ステアリング自体もウッド調のスポーティな3本スポークを奢っていました。
さらにシートはホールド性に優れたバケットタイプを採用するなど、完全にスポーツドライブを想定していました。
メーターは独立単眼式が6連ずらりと並びます。燃料計、速度計、回転計、水温計、電流計、時計という内訳。
なかでも、時計はラリーなどのスポーツ走行を想定したタイムリングやタイマーブザー機能まで付いていました。
さらに室内温度計付きのオーバーヘッドコンソールがとどめを刺します。もうどう見ても本気のスポーツカーですね。
ナンパなデートカーではない
デビュー当初のキャッチコピーは『ふたりだけのクーペ』。
これだけ見ると、バブル期に隆盛を極めたナンパなデートカーを連想しますが、前述のごとくあくまでハードなスポーツカー指向のクルマでした。
当初は2シーターのみでしたが、エマージェンシーシートが欲しいという市場からの声もあり、リアシートを追加した2+2がラインアップに加わります。
エンジンは先代フロンテ用に開発された2ストローク直列3気筒に3キャブレターを追加したもの。
2ストローク3気筒は理論上4スト直列6気筒と同等の回転バランスとされ、わずか357ccの排気量から37馬力というリッターあたり100馬力相当の驚くべきハイパワーを誇りました。
また、騒音とパワーロスを最小限に抑えるため、デュアル ラジエターを採用していました。
このハイスペックエンジンにはクロスレシオの4速ミッションが組み合わせられ、ゼロヨン加速は19.47秒を記録。最高速度は120km/hとされていましたが、それ以上の実力を持っていました。
サスペンションは前がダブルウイッシュボーン/コイル、後ろがトレーリングアーム/コイルの4輪独立懸架。
ハードに固められたサスペンションと4対6の前後重量配分によって、腕に覚えのあるドライバーならRR方式ならではの小気味良いハンドリングとコーナリングを味わうことができました。
データ
- 販売期間:1971年〜1976年(昭和46年〜51年)
- エンジン:直列3気筒 360cc
- ホイールベース:2,010mm
- 全長:2,995mm
- 全幅:1,295mm
- 全高:1,200mm
- 車重:480kg
管理人のつぶやき
旧車を撮影するようになって、色々なクルマの名前を覚えました。
でもよく似ていて間違えることがあります。
このフロンテ・クーペとよく似たデザインに、同じスズキから発売された『セルボ』があります。
発売が1977年ですからフロンテ・クーペの後継という位置づけですね。軽自動車の規格が改定されたのっでエンジンが少し大きくなって排気量は539ccでした。
好評だったフロンテ・クーペのデザインを踏襲したのは正解ですね。
今から軽を買うならこんな尖ったデザインのものが欲しいなあ。
フォトギャラリー
スポンサーリンク