トヨタの、いや日本の誇る高級車、クラウンの初代モデルです。海外メーカーとの提携が盛んだった時代に、あえて純国産に挑んだ意気込みが素晴らしいですね。日本の自動車産業を牽引して行こうという決意すら感じられます。
目次
日本の誇る元祖高級車
自動車の誕生は18世紀
世界初の自動車が誕生したのは1769年のことと言われています。人や荷物の運搬が馬車で行われていた当時、フランス人のニコラ・ジョセフ・キュニョーが蒸気を動力源とした自動車を発明しました。日本はまだ江戸時代だった頃です。
現代では脱炭素の流れからEVやHVなどが普及しつつありますが、まだまだ主流はガソリン車。そのガソリン車が登場したのは19世紀末のことでしたから、自動車誕生からほぼ1世紀の間があります。
意外に思われるかもしれませんが、ガソリン車の登場までは蒸気や電気を動力源としていたのです。今日のEV化の流れは、ある意味先祖返りと言えないこともありませんね。
国産自動車の萌芽
日本で初めて国産のガソリン車が登場したのは1907年(明治40年)のこと。大の自動車好きなことから「自動車の宮さま」と称された有栖川宮威仁親王の声掛けにより誕生した、通称『吉田式タクリー号』です。
その後、明治末期から大正時代にかけて国産自動車生産の萌芽が見られたもののまだまだ技術的には未成熟で、先に自動車大国化していたアメリカのGMやフォードによるノックダウン生産の自動車に取って代わられました。
第二次世界大戦で中断
昭和時代に入るといよいよ自動車国産化への機運が高まり、日産自動車の前身である「ダットサン商会」やトヨタ自動車の元となった「豊田自動織機製作所自動車部」が相次いで設立され、今日の日本の自動車産業に至る流れが始まりました。
しかし、第二次世界大戦の勃発による戦時体制下、軍需が優先されたため乗用車の開発は中断を余儀なくされたのでした。
戦後の復興
第二次世界大戦により大きな日本全体が大きくダメージを受けたなか、自動車産業も例外ではありませんでした。1949年にGHQによる生産制限が解除されてもすぐに自力で自動車を開発・生産する力はなく、海外メーカーとの提携によるノックダウン生産によって復興がスタートしました。
日産はイギリスのオースチン、日野はフランスのルノー、いすゞはイギリスのヒルマンと提携。技術を吸収しながら徐々に部品の国産化率を高めて力をつけていったのです。
そんななか、トヨタだけは純国産路線に邁進し、ついに1955年、初代クラウンを誕生させたのでした。
技術水準も高かった
まだ舗装路の少なかった当時の道路事情では、独立懸架式サスペンションには耐久性の問題があったのでほとんど採用されていませんでした。しかし世界にも通用する水準の高級車を目指したトヨタは走行実験と改良を繰り返し、ついにその難題を克服。悪路にも耐えうる耐久性を確保することができました。
前輪にダブルウィッシュボーン式の独立懸架を採用することに成功しました。後輪はリーフスプリングを使ったリジッドアクスル(固定車軸)ながら、板バネの工夫で当時の日本車の水準を大きく上回る乗り心地を達成しました。
最高速度は「夢の」100km/hを謳っていました。
国産車初のオートマチックトランスミッション
標準装備のトランスミッションは3段コラムシフトのマニュアル式でしたが、のちに「トヨグライド」と名付けられた国内初のオートマチックトランスミッションもオプションで選べるようになります。オートマ時代の到来を見据えた先進の装備を、これも自社開発したというからさすがトヨタですね。
観音開きのドア
あと特徴的なのは観音開きと呼ばれるドアの開き方。一般的には前についている後部ドアのヒンジを後ろ側につけるることで、座席からの乗り降りは非常にスムーズ。このあたりも高級車のあるべき姿を追求したことが現れていますね。
威厳を感じるデザイン
アメリカ車の影響を感じさせるものの、デザインは社内デザイナーによるもの。サイズが拡大した現代の小型車よりも小さいにもかかわらず、威厳さえ感じさせる風貌です。ちなみにクラウンを象徴する「いつかはクラウン」というキャッチコピーはずっと後年の7代目クラウンで初めて使われたものです。
データ
- 販売期間:1955年~1962年
- エンジン:直列4気筒 1,453cc~1,897cc
- ホイールベース:2,530mm
- 全長:4,285~4,365mm
- 全幅:1,680~1,695mm
- 全高:1,525mm
- 車重:1,210~1,250kg
管理人のつぶやき
現代の小型車サイズというのがにわかに信じられない威厳に満ちたデザイン。まさに威風堂々という表現がぴったりとあてはまります。
上の画像は全国のトヨタ販売店(ディーラー)系列の「トヨタ店」創立70周年記念事業として、福島トヨタ自動車が1年かけて完全修復したという1台です。新車と見紛うばかりの出来栄えでした。
トヨタの、そして日本の誇りを後世に受け継いでいこうという心意気に感動しますね。