日本ビクターが満を持して1977年に市場投入した本格的BCLラジオ。しかし時すでに遅く、BCLラジオはアナログ式からデジタル式へのシフトが始まっていました。遅れてきた名機と言えましょう。
ビクター FR-6600とは
BCLへの参入が遅かったビクター
BCLブームに火が付いたのはソニーが本格的BCLラジオであるスカイセンサー5800を発売した1973年(昭和48年)頃だと思われます。短波放送が受信できるラジオはそれ以前からメーカー各社から販売されていましたが、主な用途は競馬の実況中継や株式情報を放送していた日本短波放送を受信することで、海外の放送局を狙うには性能・機能とも物足りないものがほとんどでした。
メーカー各社はソニーに負けじとこぞってBCLラジオを開発、メカ好きな少年たちを虜にしたのです。ビクターもそのなかの一社でしたが、参入は1976年と遅く、また発売したBCLマシンはラジオではなくラジカセでした。RC-515というモデルで、BCLラジオとして十分に魅力的でしたが、ラジカセであるぶんラジオと比べて価格的に不利でした。
あえてラジカセでBCLに参入したのは、ビクターが総合家電というよりはオーディオメーカーだったことが理由ではないかと推察します。なお、他社からもBCLラジカセはいくつか登場しましたが、主流派にはなりませんでした。
遅れてきた周波数直読マシン
BCLラジオは進化を続け、アナログ式ながら周波数を読み取ることができる機能を搭載したものが主流となっていきます。代表的な製品にはソニーのスカイセンサー5900やナショナルのクーガ2200、そして東芝のトライエックス2000あたりでしょう。これら3機種が発売されたのは1975年から76年にかけてです。
ビクターのFR-6600はこれらと匹敵あるいは凌駕するほどの高性能・高機能マシンなのですが、発売は1977年と1年遅れでした。
この遅れは致命的で、この年にはソニーからはICF-6800、ナショナルからはプロシード2800と、周波数をデジタル表示するBCLラジオが登場。アナログ式周波数直読ラジオを一気に過去のモノとしてしまったのです。
スプレッドダイヤルによる周波数直読機構
周波数のデジタル表示は簡単かつ正確なチューニングを可能にする点で画期的でした。しかし、あえて面倒な手順を踏んで指先を頼りに目指す放送局をキャッチするという趣味的な部分においては、アナログ式BCLラジオのほうが遥かに魅力的です。
これは簡単に良い音が出せるCDと手間暇かける必要があるアナログレコードの関係にも似ているかもしれません。
FR-6600の周波数直読機能はスカイセンサー5900と似ています。右上のメインダイヤルでマーカーの発振音を頼りに大まかに周波数をあわせたら、中央のスプレッドダイヤルを使って5kHz(ひと目盛りの半分)精度でチューニングを行います。
メインダイヤルの下にはバンド切替スイッチ、その下には短波用のRFゲインコントロール(感度調節)ボリュームがついています。
メインスケールは円盤状で、一見すると日立のサージラムのようなバーニア風ダイヤルのようですが、このスケールと連動しているのは中央のスプレッドダイヤルではなく右側のメインダイヤルです。
このスケールはシルバーなのがカッコイイのですが、実用的には光の反射で文字が読みづらいのが難点です。あと、内周に行くほど目盛りの間隔が詰まってしまうのもこのタイプのデメリットですね。最内周のFMは悲惨な状態。
スケール上部のスイッチは左からマーカー、オーディオフィルター、FM用AFCと中波用感度切替、BFOです。BFOの正確な復調のため、ピッチコントロールボリュームがついています。
オーディオメーカー製らしい音の良さ
BCLラジオは一般的にそもそも音質が良くありません。理由のひとつは様々なノイズが飛び交う短波放送においては再生レンジを狭くしたほうが音声が聞き取りやすいこと。もう一つは、混信を避けるため選択度を上げるとトレードオフの関係で音質が悪くなってしまうことがあげられます。
上述のオーディオフィルターは短波のノイズをオーディオ的にカットする機能と思われます。
FR-6600は今まで使ったどのBCLラジオよりも音が良く聴こえました。FMなどまさにオーディオ的な音質が楽しめます。
16cmスピーカー搭載で高音質をうたったクーガ115さえ超えていると感じました。その意味ではBCL的な性能をある程度犠牲にしているのかもしれません。このあたりはオーディオ屋さんのビクターらしいところかもしれません。
データ
- モデル名:FR-6600
- 発売:1977年(昭和52年)
- 定価:32,800円
- サイズ:W320 x H212 x D90(mm)
- 重量:2.9g(電池含む)
カタログより
管理人のつぶやき
遅れて登場しただけに販売台数はごく少なかったものと思われます。それが証拠に、オークションで高値のつくBCLラジオの最右翼がFR-6600のようです。コンディションの良い個体なら定価の倍以上の値がつきます。写真の個体は某フリマで入手したものですが、商品説明にない不具合があったため撮影後に返品しました。6万円弱でした…
商機を逸してしまったとはいえ、先行するスカイセンサーやクーガをよく研究して開発した製品だということは十分伝わってきます。大変魅力的なBCLラジオなんですが、いかんせん結構なお値段がついてしまうので…