エンパイア 4000DⅢ – ゴールドのボディが奏でる陽気なアメリカンサウンド

アメリカのカートリッジメーカー、エンパイア社が1970年代後半に展開していたラインアップの最上位モデルです。ひと目でそれとわかる独特な形状と煌びやかなゴールドが特徴のボディ。陽気なアメリカンサウンドは日本でも多くのファンを集めました。

エンパイア 4000DⅢとは

エンパイア 4000DⅢ

発電方式はMI型

エンパイア社のカートリッジはMM型からスタートしましたが、すぐにMI型に転向。70年代から80年代にかけて多くのモデルをリリースし、代表的なカートリッジメーカーとしての地位を確立しました。

MI型とはムービング・アイアン型の略称で、レコードの音溝の信号を電磁作用により電気信号の変化として取り出す方式(電磁型)のひとつです。電磁型のほかにもコンデンサーの原理を使った静電型や光電素子を使った光電型などがありますが、主流は電磁型でした。

電磁型はコイルと磁石の相対的な位置変移を電気信号に変換するものですが、磁石を固定しておいてコイルを動かすのがMC(ムービング・コイル)型、逆にコイルが固定で磁石を動かすタイプはMM(ムービング・マグネット)型と呼ばれます。

エンパイア4000D3
陽気なアメリカンサウンドが魅力的

MI型はMM型の一種で、磁石の代わりに磁性体(金属)を動かすのもので、磁性体の近くに強力な磁石を置いておくことで結果的にMM型と同様、磁石が動くのと等価の動作となります。

ではMI型のメリットは何でしょうか?それはMM型に比べて振動系の質量を軽くすることができるというものです。電磁型で十分な電圧を得るためには強力な磁石が必要です。磁力を高めるには磁石の素材も重要ですが、その大きさにも比例します。MM型は磁石をカンチレバーの後端に配置して振動させますが、重くなると針先の動きが鈍くなって細かい音を拾うことができなくなるため、あまり大きな磁石を使うことはできません。

いっぽう、MI型は磁石は固定しておき、その磁力をカンチレバーの一部である磁性体に及ぼす方式です。軽い磁性体と強力な磁石を組合わせれば、振動系を重くすることなく高い出力を得ることができるのです。

独特のボディ形状

MM/MI型カートリッジの構造はおおむね3つのパートから成り立っています。針とカンチレバーからなる「スタイラスアセンブリー」(「交換針」の部分)。磁気回路を納めた「ボディ」、そしてヘッドシェルに取り付ける部分が「ベース」です。

一般的にはボディとベースは一体化されていて分解することはありませんが、この時代のエンパイアのカートリッジはボディとベースが完全に分かれており、ベースのツメでボディと結合させる方式になっています。なぜこのような構造にしたのか不明ですが、カートリッジをヘッドシェルに取り付ける際、ボディの位置がフリーなためリード線をつなぐのが比較的やりやすい、というメリットはあります。

エンパイア4000D3ベース
着脱できるベースとボディ

ただ、ベースが薄い板金製なので見た目は頼りない感じがします。実際にはボディとベースの組付けにガタもなく、ベースをしっかりとヘッドシェルにねじ止めすることができるため音質的なデメリットは感じません。

存在感のあるカンチレバー

カートリッジの音を決める大きな要素のひとつがカンチレバーです。針先の振動をいかに忠実に発電回路に伝達するかが問われるパーツです。理論的には「軽く・固く・短く・鳴きがない」カンチレバーが良いとされますので、メーカー各社は理想のカンチレバーを求めて素材や形状にアイデアと技術を競い合いました。

特に1970年代は日本のオーディオ業界は競争が激しく、オーディオ専業から総合家電メーカーまで数十社が参入。オーディオの市場規模も今日とは比べ物にならないくらい大きかったため、研究開発費も潤沢に使うことができました。その結果、カンチレバーにおいては、素材ではアルミを超えるものとしてチタン、ベリリウム、ボロン、ルビー、果てはダイヤモンドまでが採用され、加工方法も最先端のレーザー技術まで動員され、世界でいちばん進んだカートリッジを輩出するようになりました。

海外メーカーも技術開発を怠ったわけではありませんが、日本のある意味過剰とも思える開発競争とは一線を画していた感があります。

エンパイア4000D3カンチレバー
太く長いカンチレバー

エンパイアの4000DⅢも、同社の最高級品でありながらカンチレバーはコンベンショナルなアルミ製。テーパー形状によって強度を高めてはいますが、軽薄短小路線を突っ走っていたジャパニーズ・カートリッジをあざ笑うかのごとく、みるからに長く太いものでした。

音が良ければそれで良し

そんなわけで、少なくとも表面的には技術面の優位性など感じないカートリッジなのですが、ひとたびレコード盤面に針をおろすとそんなことはどうでも良かったのか、と考えを改めさせられます。

見た目の印象に引きずられているのかもしれませんが、まさに煌びやかで艶のある「これぞアメリカンサウンド」と言いたくなるような音がします。ロックやジャズを聴くにはピッタリ。かといってクラシックに不向きかと言えばそんなこともありません。

物理的に原音に忠実かどうかはさておき、「心地よい音」が聴きたいならぜひ持っていたいカートリッジです。

エンパイア4000D3針カバー
ビルトインされた針カバー

データ

  • 発売:1974年(昭和49年)
  • 定価:58,000円
  • 型式:MI型
  • 周波数特性:10Hz~50kHz
  • 出力電圧:3.0mV/ch(35.4mm/s)
  • 針圧:0.75g~1.25g
  • 針先:0.2mil バイラジアル
  • カンチレバー:テーパー形状アルミパイプ

管理人のつぶやき

舶来品礼賛、という傾向はオーディオに限らず自動車や洋酒など趣味性が求められる商品ジャンルには強く存在していたように思います。

価格も国産の同等品とくらべて数倍、なんてこともザラにありました。エンパイアのカートリッジも定価では非常に高価だったのですが、店頭では大幅値引きの対象にされていた記憶があります。当時の母国での価格を知る由もないのですが、舶来品礼賛につけこんでトレーダーが暴利を貪っていたんじゃないかと疑いたくなります。

4000DⅢの定価58,000円というのは、同時期にテクニクスが発売したEPC-100Cという技術の粋を投入した超高級MM型カートリッジ(定価60,000円)とほぼ同じ値付けなのですから。良いカートリッジであるのは間違いないですが、いくらなんでもあの値付けはなぁ、と思うのであります。

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