企業のブランドや製品の認知向上を狙って、親しみやすいキャラクターを登場させるのは昭和のむかしからマーケティングの定石でした。その手法は昨今では自治体のゆるキャラにも受け継がれています。今回は電機メーカーのキャラクターを取り上げます。
電機メーカーのキャラクター
ソニー坊や

電機メーカーのなかにあって、製品から広告宣伝まで常に他社と違う路線を邁進していたソニーにしては珍しいムーブでは?と思われるのがソニー坊やの登用です。実はソニー坊やはソニーのオリジナルキャラではなく、昭和30年代に週刊朝日に連載されていた漫画『あっちゃん』(作・岡部冬彦)の主人公をライセンス契約して抜擢したものでした。
ソニー坊やが誕生したのはまだ社名が東京通信工業だった時代で、トランジスタラジオやテレビの成功によって「世界のソニー」と呼ばれるようになる前のことでした。まだ海のものとも山のものともわからない町工場だった当時、ブランドをいかに認知させるかは最重要課題のひとつだったのでしょう。なので、ブランド認知の広まりとともにソニー坊やはその役割を終え、静かに退場していったものと思われます。
ところが面白いことに、沖縄県にはソニー坊やをかたどった全長2メートルはあろうかというコンクリート像が複数体現存しているとか。台座には「交通安全」の文字があり、国道沿いなどに設置されているそうです。このソニー坊や像、生みの親はソニーの沖縄総代理店だった電波堂の創業者の方だそうです。ソニー製品のプロモーションだけでなく、ソニー坊やが沖縄の人たちの交通安全にも一役買っていたとは興味深いですね。
ナショナル坊や(松下電器)

ソニー坊やとくらべるとデフォルメ感強めのナショナル坊や。それもそのはず、オリジナルは1957年に調理用ミキサーの広告に採用された「トマト坊や」でした。そう言われると頭がなんとなく野菜(トマトというよりナスかカボチャ?)っぽく見えなくもありません。
子どもの頃ナショナル坊やを目にした昭和世代の方は非常に多いと思われます。というのも、ナショナルの系列販売店は他社よりも圧倒的に多かったからです。全国津々浦々のナショナル系列店の店先で多くのお客さんをお迎えしたことでしょう。
ナショナル坊やはテレビCMにも登場していました。「明るーいナショナル……なーんでもナショーナールー♪」というCMソングにのって、ナショナル坊やが家電製品を世界に届ける、というストーリーだったとか。映像は記憶になくともあのメロディーが頭に浮かぶ方は多いのではないでしょうか。
光速エスパー(東芝)

東芝といえば、長らく独占スポンサーをしていたテレビアニメ「サザエさん」の印象があまりに強いのですが、実はサザエさんが放映開始される1969年の前年まで放映されていたSF特撮ドラマ「光速エスパー」が当時の公式キャラクターでした。
日曜夕方の東芝スポンサー枠、「光る、光る東芝~」で始まるCMソングが思い起こされます。光速エスパーはまさにドンピシャのキャラクターでしたね。
光速エスパーに扮するのは当時中学生だった俳優の三ツ木清隆さん。「イー・エス・パー!」と威勢の良い掛け声とともに主人公の東ヒカルがヒーローに変身、ギロン星人から地球を守るという勇ましいストーリーなのですが、その背景はなかなかシビアなものがあります。ギロン星人によって住処を滅ぼされたエスパー星人が地球に難を逃れる際に起こした事故のせいで、ヒカルの両親は死亡してしまいます。責任を感じたエスパー星人は両親に成りすまし、ヒカルを育てながらひそかにギロン星人との戦闘能力を与える、という設定なのです。哀れヒカルはそんなこと知らないんですよね…
ポンパ君(日立)

今では社会インフラ企業として売上高10兆円に迫ろうかという総合電機メーカーの雄、日立製作所。家電事業はだいぶ縮小されてしまいましたが、かつてはテレビやオーディオでも存在感のあるメーカーでした。
このキャラクター「ポンパ君」は家電に力を入れていた時代のもの。系列店と呼ばれる日立の特約店は「日立チェーンストール」と呼ばれ、店頭にはポンパ君の像が置かれていたものです。
ポンパ君の名前の由来ですが、胸に書いてある「キドカラー」が関係しています。キドカラーとは、日立がカラーテレビに付けたニックネームのようなもの。当時はテレビに各社の技術を象徴したニックネームをつけるのが流行していました。松下なら「パナカラー」、ソニーなら「トリニトロン」、東芝は「ブライトロン」といった具合です。
日立の「キドカラー」は、テレビ画面の明るさを意味する「輝度」、そして高い輝度を実現するため原材料に使用した「希土類(レア・アース)」から命名されたそうです。「ポンパ」はテレビのスイッチを「ポン」と入れると「パッ」とすぐに映像が出る、という意味で、こちらもテレビ由来の造語です。トランジスターが採用される前の真空管式テレビでは、スイッチを入れてもなかなか映像が映らなかった(真空管が暖まるまでの時間が必要だったため)ので、「ポンパ」で新型テレビのイメージ造りを図ったのでしょう。

ニッパー(日本ビクター)

忠犬ハチ公さながらのおりこうなワンちゃんが日本ビクター(現 JVCケンウッド)のキャラクターだった「ニッパー」です。犬種はフォックステリアで実在した犬でした。原画はイギリス人の画家、フランシス・パラウドが1889年に描いたものとされています。
ニッパーはフランシスの兄に飼われていたのですが、兄の死後、フランシスが引き取って育てていました。ある時、たまたま蓄音機で亡き兄の声を再生したところ、ニッパーはどこか懐かしそうにその音声に聞き入っていたそうです。その姿に心打たれたフランシスは早速絵筆をとった、という訳。絵のタイトルは『His masters voice(主人の声)』。キャラクターとセットで使われることになるフレーズですね。
日本ビクターはテレビも製造販売していましたが、オーディオの名門でもありました。音と切っても切り離せないニッパーは、まさにうってつけのキャラクターだったと言えましょう。
コロちゃん(日本コロムビア)

日本コロムビアは日立傘下のレコード会社でしたから、電機メーカー枠に入れるのは無理がありますね。とはいえ、一時期、音響メーカーのデンオン(現・D&Mホールディングス)を配下に置いていましたから、あながち的外れとも言えません。
キャラクターのコロちゃんは童謡レコードの販促用として生まれたもの。なので、電器店ではなくレコード屋さんの店頭ディスプレーとして活躍していました。コロちゃんの「コロ」はコロムビアの「コロ」ですね。
テンガロンハットに赤いマフラーを纏った流しのギタリスト、という風情。昭和感たっぷりで思わず手元に置きたくなるキャラクターです。
管理人のつぶやき
蛇足ですがソニーロゴの色について。
多くの企業が時代によってロゴを刷新してきたなかで、ソニーは「SONY」のロゴを非常に大切にしていることで有名。過去から何度か細部のリファインを重ねながらも基本的なデザインは堅持しています。色使いにも厳しいレギュレーションがあって、現在では赤は認められていません。
ソニー坊やの胸にもある赤いロゴは1970年代中頃までは使われていたようで、カタログにも見ることができます。

稀少な赤ロゴを身に着けたソニー坊やは、その意味からもレアなアイテムといえましょう。


