デンオン(現・デノン)がNHKと共同開発した放送局向けカートリッジの流れを汲むMC型カートリッジ。日本製MC型カートリッジとして最も歴史の長いDL-103シリーズの末裔にあたり、2026年現在でも現役の製品です。
デンオン DL-103Rとは

NHKとの共同開発
本機の源流であるDL-103は1964年に誕生しています。「NHKとの共同開発」という枕詞が常について回るほど有名な開発背景は、当時実験放送されていたFMによるステレオ放送が本放送化されることを見据えて、NHKからデンオンに開発が依頼された、というものです。実際の開発はデンオン技術陣によるものですが、要求仕様を定めたのはNHKの技術研究所。
NHKとメーカーの共同開発というパターンは、日本のオーディオ・ビジュアルの歴史上、いくつものエポックメイキングな技術や製品を生み出してきました。今日では当たり前になったデジタル音声処理技術であるPCM方式や、テレビの画質を飛躍的に向上させたハイビジョンなどが代表的。カートリッジでも、DL-103の2年後に製品化されるMM型カートリッジ F-8を品川無線(グレース)と共同開発しています。
プロ向け製品を市販化
DL-103は放送局用として開発されたカートリッジですので、どのようなジャンルや盤質のレコードでもクセなく安定的に鳴らすことが第一に求められます。加えて取り扱いのしやすさや耐久性も欠かせません。
NHKのFMステレオ放送でDL-103のフラットな音色を耳にしたオーディオマニアからは、ぜひ市販を、という要望が寄せられるようになります。そこで、オーディオ市場への本格参入を伺っていたデンオンは市販化を決断。オリジナル製品に量産に向けた改良を加え、1970年に発売されると一躍ヒット製品となり、現在まで続くロングセラーとなっています。
受け継がれる基本構造
DL-103シリーズは1964年のオリジナルモデル誕生から60年以上もの長きにわたり、MC型カートリッジの代表的モデルとして君臨し続ける驚くべき製品です。
時代によって進化するオーディオ環境やソフトに対応すべく、軽針圧化や新素材の採用など様々な改良を加えられながらも、オルトフォン型と呼ばれる基本構造(井桁状の磁性体コアを持つ発電コイルと、フロントヨークをカンチレバーが貫通する構造が特徴)は不変。飾り気のないシンプルなデザインも受け継がれています。

現行モデルは2機種
これまでに10機種を超えるバリエーションが発売されましたが、2026年現在でも販売しているのはDL-103と1994年に追加されたDL-103Rの2機種のみです。
DL-103Rではコイル線材に6N(純度99.9999%)の銅線を用い、また本体表面に特殊コーティングを施して剛性を高めるという改良が加えられています。しかしながら、スタイラスチップはオリジナルと同じ16.5ミクロン丸針、針圧もオリジナルと同じ2.5gをキープしています。

標準機ならではの安心感
長くオーディオファンに愛され続ける理由のひとつは、クセのないフラットな周波数特性といえましょう。加えて、いたずらに軽針圧化を追わないことが骨太でどっしりしたサウンドにつながっていると思われます。
繊細な表現や漂うような雰囲気、といったいわゆるハイエンド的なサウンドとは趣を異にしますが、そうした音質のカートリッジを所有しているマニアにとっても、どこか懐かしさを感じさせるDL-103シリーズの音はひとときの安心感を与えてくれる唯一無二の存在、といえるのではないでしょうか。
データ
- 発売:1994年(平成6年)
- 定価:28,000円(発売時)、93,500円(2026年1月)
- 周波数特性:20Hz~45kHz
- 出力電圧:0.25mV
- 針圧:2.5±0.3g
- 針先:16.5ミクロン丸針
- カンチレバー:アルミパイプ
管理人のつぶやき
ついにデフレを脱却した日本経済。あらゆるものが値上がりしていますが、オーディオ製品の値上がり幅はなかなかダイナミックです。
DL-103Rは、2026年1月の価格改定でそれまでの63,800円から一挙に46.5%の値上げ。あと一歩で10万円に手が届くところまできました。1994年の発売時の価格からは実に3倍以上です。オーディオ市場がシュリンクしてしまったことや諸々のコストアップを踏まえるとやむを得ないこととはいえ、いささか引いてしまうものがあります。
これはレコードを鳴らすためのコストが1994年比で3倍以上になったことを意味します。針の寿命を300時間と仮定しレコード1枚1時間とすると、1枚あたり312円が消費されるわけです。
デジタル音源なら聴くたびにかかるコストは電気代ぐらいなもの。アナログオーディオ、なんとも贅沢な趣味になってしまったものです。

