デジタル時代の今日ではヘッドホンメーカーとして知られるオーディオテクニカですが、アナログ時代から連綿と続くフォノカートリッジも世界的に有名です。AT160MLはCD黎明期の1982年に発売されたVM型カートリッジの最高級モデルです。
オーディオテクニカ AT160MLとは

カッターヘッドと相似形
オーディオテクニカのカートリッジと言えばVM型、といってよいほど同社カートリッジの象徴となった発電型式であるVM型は、カンチレバーにマグネットが装着されるMM(ムービング・マグネット)型の一種でありながら、V字型にふたつのマグネットを配置した独自の構造から、米国シュアー社が持っていたMM型のパテントを回避することに成功。ライセンス料の支払いを免れることが出来ました。
このV字型レイアウトは、レコードの原盤に音溝を刻むカッターヘッドとよく似た構造であることから、「カッターヘッドと相似形」というキャッチフレーズが生まれました。いかにも原音に忠実な再生を予感させる、実に上手いマーケティング・アイデアといえましょう。

マイクロリニア針を採用
針先チップの形状で最もオーソドックスなのは丸針。その名のとおり、円柱のダイヤモンドを円錐型に切削し、さらに先端部を丸く研磨して針にしたものです。製造しやすいためローコスト製品に採用されたり、また、丈夫であることから使用環境が過酷なプロ用カートリッジにも採用されました。デメリットとしては、細かい音を拾い難いこと、レコード内周で歪みが出易いことなどが挙げられますが、その「骨太な音」を好むユーザーも少なくありません。
丸針の欠点を軽減するため、円柱の前後を削って楕円形状にしたのが楕円針。それをさらに進化させ、音溝と線状に接触させることで歪や摩耗を極限まで減少させたのがラインコンタクト針と呼ばれるもので、マイクロリニア針もその一種です。内周歪みの少なさや高域の伸び、さらに、丸針や楕円針にくらべて2倍以上とも言われる長寿命が特長です。
金蒸着カンチレバー
針先が拾った振動をマグネットに伝えるカンチレバーには、高い剛性と軽さを両立した素材と構造が求められます。オーディオテクニカが選んだのはベリリウム。ベリリウムは剛性と軽量を高いレベルで両立した金属として、カンチレバー以外にも高域用スピーカー(ツィーター)の振動版としても採用されました。
AT160MLでは、ベリリウムのストレート丸棒に、さび止めとダンプ効果(鳴き止め)を狙って金を蒸着させるという凝った造りとしています。

振動を伝える素材として優秀なベリリウムでしたが、人体への毒性が問題となって使用されなくなり、近しい特性を持ったボロン(金属ではありません)に代替されました。
ヘッドシェルとマッチしたデザイン
カートリッジを取り付けるヘッドシェルはどのメーカーのものでも使えますが、オーディオテクニカの一部のヘッドシェルとはデザインのマッチングがとられており、組み合わせると実に精悍で、この組み合わせ意外はダサく見えてしまうほどです。

ちなみのこのヘッドシェルはネック部分が固定ではなくネジで調節できるようになっています。カートリッジとヘッドシェルのデザイン的な一体感を損なうことなく、オーバーハングを適正値に調節できるわけです。

情報量が多く万能なサウンド
音の特徴については、オーディオ評論家・石田善之さんのコメントを引用させていただきます。
音は150が持っていたやや荒々しさにもつながる元気の良さ、迫力にかわって、もう少ししっとりとした奥行き感が加わっている。幅広い音楽ソースに対応が可能で、ポップスやロックに加え、じっくりと聴かせるクラシックやデリケートなアンサンブルなどにも、うまくマッチするようになっている。情報量も大変に多い。(別冊FMfan 1983年春号より)

データ
- 発売:1982年(昭和57年)
- 定価:28,000円
- 型式:VM型
- 周波数特性:5Hz~35kHz
- 出力電圧:5.0mV
- 針圧:0.75g~1.75g
- 針先:マイクロリニア
- カンチレバー:金蒸着ベリリウム丸棒
管理人のつぶやき
オーディオテクニカはデノン(旧デンオン)とならんで、今日でもカートリッジを供給してくれる貴重なメーカーですね。音の傾向としてはメリハリを効かせてハッキリクッキリと聴かせる、デジタル時代にも古さを感じさせないトーン。もっともモデルによってかなり性格の違いはあるようで、「しっとりメロウ」と評されたものもありました。いずれにしても、テクニカのVM型はどうしても1本は持っていたいカートリッジです。MC型のAT33シリーズもロングセラーの名機ですね。
テクニカのヘッドホンを使っていたこともあります。ATH-ES10という密閉型のコンパクトなモデルで、ヘアライン入りのチタン製ハウジングが実にクールな、外出時にかけたくなるヘッドホンでした。ただ、音はけっこうキンキンしたクセの強いものだったので、自宅でじっくり音楽を楽しむにはイマイチ。ということで、通勤で使わなくなってから手放してしまいました。


