バブル経済が最高潮に達した1989年、老舗オーディオメーカーのラックスマンが満を持して送り出した純A級のプリメインアンプ。35万円と常識を破る価格ながら、プリメインの枠を超える音質とユニークなデザインで絶賛された歴史的名機です。
目次
ラックスマン L-570とは

日本最古のオーディオブランド
ラックスマンの源流は大阪の錦水堂額縁店のラジオ部で、創業は1925年(大正14年)と戦前のこと。ラジオやオーディオアンプとその部品の製造販売を手がけました。翌1926年にはブランド名をLUXと定めます。
2025年には創業100周年を迎えた、世界的にも最古参といってよいオーディオメーカーです。特にアンプにおいては自社製の高品位なトランスを使った真空管式アンプが高く評価され、日本のオーディオ業界をけん引するブランドのひとつとして認知されるようになります。トランジスタ時代を迎えてからも長らくその地位は不変でした。
しかしオイルショックの影響によって1970年代後半には経営難に陥り、1980年にはアルプス電気の出資を仰ぐことになります。アルプス電気は電子部品の大手メーカーでしたが、傘下にアルパインという製品ブランドを持っており、主にカーステレオの分野では高いシェアを獲得していました。
アルパインはホームオーディオ市場に進出するため、アルパイン/ラックスマンというダブルブランドを立ち上げ、ラックスマンの持つ真空管アンプのノウハウを活かしたトランジスタとのハイブリッドアンプ「ブリッド・シリーズ」を投入したのでした。
ハイエンドへの回帰
ブリッド・シリーズのアンプはそのユニークな成り立ちとサウンドで一定の評価を獲得しますが、価格帯的にはミドルレンジの製品が中心。かつてのハイエンド・イメージを持つラックスマンのファンからは物足りなさを指摘されていました。
そこで捲土重来、ハイエンドブランドとして再起すべく社内に立ち上がったのが「Lプロジェクト」。ここからラックスマンの逆襲が始まりました。
前置きが長くなりましたが、L-570はまさにこのプロジェクトから生まれたプリメインアンプなのです。

あらゆる妥協を排したプリメイン
L-570はアンプに求められる三大要素、すなわち「回路」「パーツ」「コンストラクション」において最上を追求。徹底して妥協を排したスーパープリメインとして誕生しました。
純A級の増幅回路
アンプの増幅回路には、原理的にスイッチング歪やクロスオーバー歪が発生しない純A級を採用。プリメインアンプとして純A級を初めて採用したのはL-550という1981年発売の製品でしたが、L-570もこの方式を踏襲し、さらに磨きをかけています。
他社では効率のよいB級回路をベースに、バイアス電流を変化させることによりスイッチング歪を発生させないよう工夫したいわば「疑似A級」が盛んに喧伝されていましたが、ラックスマンはあえて常時大量にバイアス電流を流す純A級を採用。
出力は50W/chと、他社製品と比べてスペック的には大きく見劣りするものでしたが、強力な電源部に裏打ちされたスピーカードライブ能力は力不足を感じさせないものでした。
ヒートパイプを使った高効率ラジエーター
純A級はその高音質と引き換えに、パワートランジスタからの大量の発熱への対策が求められます。単体のパワーアンプであれば筐体の容積にゆとりがあるため、大型のヒートシンクや冷却ファンなどを採用することも可能ですが、プリメインアンプではスペースの制約から不可能。
そこでラックスマンが採用したのは金属製のパイプに特殊な液体を封入したヒートパイプでした。これを純銅製のフィンと組み合わせることで効率的な排熱を実現。ただし、ヒートパイプ内の液体が蒸発する際に発生する音を抑制することには苦心したようです。

アルティメート・アッテネーター
ボリュームは増幅には直接関係ありませんが、音声信号が必ず通過することから音質劣化の原因となりえる重要なパーツ。ここでもラックスマンは妥協を許しません。
一般的なボリュームは導電体の上を金属ブラシが接触しながらスライドする方式のため、摺動部で発生する迷走電流や接点材質の影響を受けてしまいます。L-570に採用されたアルティメート・アッテネーターは、非磁性体の固定抵抗を基板上に多数並べて配置し、32接点を持つロータリースイッチにより抵抗値を選択するようにしたもの。摺動部を持たないため劣化の極めて少ない信号の減衰を可能にしました。

強力な電源部
純A級の安定した動作を支えるには強力な電源部が欠かせません。L-570では超重量級のトランスと大容量コンデンサの組み合わせにより、極めてレギュレーションに優れた電源部を実現。低インピーダンス負荷にもびくともしないパワー供給能力を確保しています。

無共振ボトムシャーシ
アンプの土台であるシャーシには、外部からの振動を回路に伝えないことと、部品が発生する振動を抑制することのふたつの役目が求められます。
これらをハイレベルで実現したのがセラミックを混入したFRP樹脂を使った無共振ボトムシャーシです。理想的な形状を成型するのに有利な樹脂でありながら非常に比重が大きいのが特徴で、アンプを始めとしたオーディオ機器にはうってつけの素材といえます。
超重量級の電源トランスとも相まって、本体の重量は30kgとウルトラヘビー級のアンプになりました。
印影あるユニークなデザイン
ラックスマンは、オーディオ機器の性能や機能を追求するだけでなく、趣味の友としてどうあるべきかを模索してきたメーカーでもあります。その一つがデザインへのコダワリです。
L-570ではフロントパネル中央部にシンメトリーに配置されたプッシュボタンが唯一無二の表情を生み出しています。このボタンの表面は左右方向に湾曲しており、光の当たり方によって見事な印影が生まれるようになっています。ポジションを示すLEDはあえて超小型として存在感を控え、ボタンが醸し出す味わいをスポイルしないように配慮されています。

ボリュームなどのツマミにも質感の高い見事な加工が施されています。
オーディオ専門誌からは称賛の嵐
ラックスマン渾身のプリメインアンプ、L-570は見事にブランド再起への期待に応えます。オーディオ評論家からは好意的な評価が相次ぎ、専門誌による賞も総なめ状態でした。
ラックスマンではこの機会をとらえて「パブリシティ・レポート」という冊子を発行しています。オーディオ専門誌による評価記事や受賞歴をまとめた、オーナーの自尊心をくすぐるニクイ冊子になっています。



データ
- モデル名:L-570
- 発売:1989年(平成元年)
- 定価:350,000円
- 実効出力:50W/ch(8Ω)
- 高調波歪率:0.01%以下(定格出力 8Ω 20Hz~20kHz)
- サイズ:W438 x H176 x D467(mm)
- 重量:30kg
カタログより




管理人のつぶやき
このアンプは事情があって手放してしまったのですが、実に後悔されます。
ラックスマンでは、このシリーズのメンテナンスキャンペーンというのを毎年夏に実施していました。本体内部が高温になるため部品劣化が起きやすいという事情によるものかもしれませんが、メーカーによるリフレッシュが受けられるのはオーナーにとってはとても有難かったです。
通常のメンテナンスに加えて、オプションでパワートランジスタや電源コンデンサ、スピーカーターミナルをグレードアップすることも出来たのです。メーカーによるチューンナップですね。このキャンペーンに大枚をはたいて性能をアップデートしてあったのです。

もうひとつ後悔の理由は極めて個人的なものですが、古くからの友人のプレゼントが関係しています。
L-570のボリュームは本文にあるとおり32接点のロータリースイッチなのです。音質的には有利とはいえ、微小な音量調整が出来ません。深夜などごく小さな音量で鳴らしたいときにはこれが不便でした。そこで、L-570についているプロセッサー端子にボリュームを挟むことを考えました。アクセサリー端子とは、グラフィックイコライザーなど外部の機器に信号を通してからアンプに戻すことで、アンプだけではできない音創りを出来るようにするもの。これを流用しようとしたわけです。
このアイデアを友人に相談すると、なんと素晴らしいアッテネーターを手作りしてくれたのです。L-570の外観に似せたうえ、驚くべきことに外箱や取説、はてはカタログまでパロディしてくれる凝りよう。アッテネーターの内部には鉛の重りが入っておりズッシリ重くなっています。もはや製品化しても良いぐらいの出来栄え。使ってみると目論見通りに微小な音量調整ができるようになりました。
アンプ本体を手放してしまった今もL-570の形見として手元に残っています。ちなみにP-570というのは友人のニックネームからきています。一生の宝物です。



