「クルマは低くないと売れない」が常識だった時代がありました。背が高いクルマは鈍重で、格好悪く、売れない。いまでは考えにくいこの価値観に、真正面からケンカを売った一台が、1981年に登場したホンダ・シティです。
目次
ホンダ シティ(初代/AA/VF型)とは

シビックの成功が生んだ空白
初代シティ誕生の背景には、ホンダ特有の事情がありました。初代シビックの大ヒットにより、ホンダは小型車市場の中心的存在となりますが、2代目シビックでは排気量が1.5リッタークラスへ拡大。その結果、それまで初代シビックが担っていた1.2リッター級のエントリー市場が空白地帯となってしまいました。
軽自動車に戻ることもできず、かといって車体を大型化する余裕もない。そんなジレンマの中で生まれたのが、シティというクルマだったのです。
小さいなら、高くすればいい
ホンダが出した答えは、実にシンプルで大胆でした。
全長を伸ばせないなら、横にも広げられないなら、残るは高さだ。

こうして誕生したシティは、コンパクトなボディに対して驚くほど背が高いプロポーションを持っていました。いまではミニバンやトールワゴンで当たり前の考え方ですが、当時は完全にタブー。メーカー内部ですら「こんなクルマが売れるのか」と疑問視されていたと言われています。
スポーツではなく「楽しさ」を売ったクルマ
しかしシティは、速さやスポーティさではなく、「楽しさ」や「便利さ」、そして「新しさ」を前面に押し出しました。
イギリスのバンド、マッドネスが登場するテレビCMのインパクトは強烈で、シティが提案する新しいコンセプトにみごとにフィット。シティが新しいクルマであることを見事に印象付けました。あのコミカルなムカデダンスは物まねが大流行。ちょっとした社会現象にもなりました。
結果、シティは若者を中心に大ヒット。ホンダの作戦は見事に成功します。

さらに背を伸ばした「マンハッタンルーフ」
そのコンセプトをさらに推し進めたのが、1983年登場の「シティ・マンハッタンルーフ」です。小型車でありながらハイルーフという大胆な仕様に、「マンハッタン」という摩天楼を連想させるネーミング。これ以上ないほど分かりやすい自己主張でした。

ルーフ部に高品質スピーカーを組み込んだ「マンハッタンサウンド」や、サンルーフの設定など、実用性だけでなく「気分を上げる装備」が用意されていたのも、シティらしいところです。
速さも欲しい? それならターボⅡだ
とはいえ、「背が高くて便利なのはいいけれど、走りはどうなんだ?」という声が出てくるのも当然でした。そこでホンダが用意した切り札が、「シティ・ターボ」、そしてその進化形であるターボⅡです。

ターボⅡは、1.2リッターエンジンにターボチャージャーを組み合わせ、当時としてはかなり刺激的な性能を実現しました。その低く構えた可愛らしいずんぐりスタイルから「ブルドッグ」の愛称で呼ばれましたが、ブリスターフェンダーやスポイラー形状のバンパー、その他ディテールアップが施されていて、まるでドレスアップカーのようでした。
背が高くて実用的なクルマが、本気で走りも狙ってきた――そのギャップが、多くのクルマ好きを虜にしました。
クルマに積めるバイクという発想
そして、シティを語るうえで欠かせない存在がモトコンポです。

折りたたむことでシティの荷室にぴたりと収まる専用設計の原付バイク。シティのトランクに積んで、出先でチョイ乗りに便利に使おう!というコンセプトです。ハンドルとシートを引き出すだけで走れる利便性と、揺れたり横倒しにしてもOKというギミックが話題になりました。
販売していた当時は、「シティのオマケでもらえる」という誤解が広まっていて、あまり売れなかったというウワサも…
ホンダらしさの顛末
低くなければダメだと言われた時代に、堂々と背を伸ばし、便利さだけでなく、速さや遊び心まで詰め込んだホンダ・シティ。ターボⅡも、モトコンポも、すべては「シティ」という自由な発想から生まれたと言えましょう。
しかし、その斬新なコンセプトは初代どまり。2代目では真逆の「ワイド&ロー」スタイルに激変してしまいます。この変わり身の早さもホンダらしさと言えますが、個性を失ったシティは2代目で実質的にはゲーム・オーバーに。3代目からは他の車種の名前を変えただけの派生モデルに転落してしまいます。
データ
- 販売期間:1981年(昭和56年)~1986年(昭和61年)
- エンジン:直4 SOHC 1,200cc
- ホイールベース:2,220mm
- 全長:3,380~3,420mm
- 全幅:1,570~1,625mm
- 全高:1,470~1,570mm
- 重量:655~745kg
管理人のつぶやき
シティと言えばマッドネス、というかムカデダンス。というのは当時を知る世代にとって条件反射とさえいえるほど切っても切り離せない記憶ではないでしょうか。クルマ自体を前面にフィーチャーすることなくしっかりと認知に成功するという、良く出来たCMだったと思います。
当のマッドネスは本文でも触れたようにイギリスのバンド。「スカ」というジャマイカ発祥の音楽ジャンルにサックスを加えてアレンジした斬新な「ネオ・スカ」バンド、として活動していました。1986年に解散してしまいましたが、1992年に再結成し現在でも活動を続けているというからちょっと驚きです。
ちなみにシティのあのCMソングは彼らのオリジナルではなく、日本のミュージシャン井上大輔の作曲によるものだそうです(『シティ・イン・シティ(In The City)』)。
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