いすゞ ベレット – 和製アルファロメオの異名をとった名車

今日では商用トラックメーカー大手として知られるいすゞですが、かつては魅力あふれる乗用車も製造販売していました。大手メーカーとはひと味違う、個性的でセンスの光るデザインの名車を歴代にわたり輩出しました。ベレットは1960年代におけるいすゞの主力車種で、1963年から1973年まで10年の長きにわたりさまざまなバリエーションが展開されました。

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ベレットの生い立ち

ベレットGTR
最強バージョンのベレットGTR

イギリスのヒルマンが先生だった

いすゞ自動車の前身は、戦前から続くメーカーで大型トラックやバスを製造販売していたヂーゼル工業。そのヂーゼル工業は1949年にいすゞ自動車に社名変更し、乗用車の生産に乗り出すことになりました。

戦後の日本の自動車メーカーは、純国産にこだわったトヨタを除いては、海外メーカーが開発した車両を部品の状態で輸入し国内で組み立てる、いわゆる「ノックダウン」方式で乗用車生産をスタートしました。海外の技術に学びつつ徐々に部品の国産化率を高め、最終的には完全国産化を目指すという戦略ですね。

日産はイギリスのオースチン、日野はフランスのルノーと提携。いすゞはイギリスのヒルマンと組むことになり、1953年にヒルマン・ミンクスというミドルクラスのセダンのノックダウン生産を開始します。そしてお作法通りに国産化を進め、1957年には完全国産化を達成しました。

いすゞ初の純国産車「ベレル」

ヒルマン・ミンクスのノックダウン生産する傍ら、独自開発も進めていました。そしてついに誕生したいすゞ初の純国産車が1961年の全日本自動車ショウでデビューした「ベレル」でした。

ベレルはトヨタのクラウンや日産のセドリックと同じ車格のフルサイズ・セダン。自家用車市場はまだ小さかったためタクシー需要を見込んだ6人乗り設計でした。

しかし、技術力や販売力でトヨタや日産に対抗するのは難しく販売は低迷。ベレルは一代限りで生産を終了しました。

ベレルの妹、ベレット誕生

ベレルがフルサイズ・セダンであったのに対して、ヒルマン・ミンクスよりも一回り小さな小型乗用車として開発されたのがベレットでした。ちなみに「ベレット」とは、「小さなベレル」という意味を込めた造語ですね。

1963年のデビュー当時のラインアップはエンジンが1500ccと1800ccディーゼルの2タイプ。翌年に廉価版の位置づけで1300ccモデルが追加になりました。ボディタイプは2ドアと4ドアのセダンでスタート、のちに「ベレG」としてモータースポーツでも大活躍するクーペのGTが登場しました。

当時の国産車の水準を超えた運動性能から「和製アルファロメオ」とも称されました。

日本で初めてGTを名乗った

スポーティーグレードのGTは、日本発の「GT(グランツーリスモ)」を名乗ったモデルとして有名。ちなみに「グランツーリスモ」はイタリア語で、もともと「長距離ドライブに適う高いパフォーマンス及び高いラグジュアリー性を有する車種」という意味でした。

ベレットGT
見慣れた丸目4灯のヘッドライト

開発はエンジニア主導で行われ、当時の最新技術が意欲的に盛り込まれた。日本車初のディスクブレーキ、4輪独立懸架(前輪はダブルウィッシュボーン、後輪はダイアゴナルスイングアクスル)、応答性に優れたラック&ピニオンによるステアリングなど。エンジンはOHVにSOHC,さらにDOHCタイプもラインアップ。

卵をモチーフとしたスポーティーなボディに先進メカニズムを満載。 クレイジーケンバンド(横山剣)の「ベレット1600GT」という曲に歌われたのはまさにこの車種ですね。

サルーン用のタイプB

これは「タイプB」というサルーンで、リアサスペンションがリジッド(固定軸)に変更されたモデルです。旧車イベントではあまり見かけないレアなモデルです。

ベレット1500サルーン
角型ヘッドライト

ベレットの4輪独立懸架は、前輪はダブルウィッシュボーンに後輪がダイアゴナルスイングアクスルという組合せで乗り心地やハンドリングには定評があった一方で、減速時にいわゆる「ジャッキアップ現象」が発生しやすく、コーナリングで突然テールスライドするという扱いにくい面がありました。

そこでサルーンでは安定性を重視した「タイプB」をラインアップに加えることになりました。タイプBはタクシーに採用されることもあったようです。 外観ではリアのコンビランプやトランクの形状が従来型サルーンとは異なっています。

ベレット1500リアビュー
珍しい形状のリアランプ

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データ

  • 販売期間:1963年~1974年(昭和38年〜49年)
  • エンジン:1,300cc~1,800cc
  • ホイールベース:2,350mm
  • 全長:3,990mm
  • 全幅:1,495mm
  • 全高:1,390mm
  • 車重:920kg ※サイズ・車重はPR50RN型のもの

管理人のつぶやき

旧車イベントでは必ずと言って良いほど目にするのがベレットです。

しかもバリエーションが多いので、「この個体はどれだろう?」と見分ける楽しみがあります。

スポーティーなクーペのGTRやGTもあればファミリー向けのセダンもあり、モデルライフが長かったことからマイナーチェンジによる意匠のバリエーションが多いのも目の付け所です。

細かい違いはさておき、卵型をイメージしたというやや尻下がりでよく引き締まったフォルムはとても魅力的。117クーペ、ピアッツァ、ジェミニと欧州車並みのセンス抜群な名車を輩出したいすゞの源流をベレットに見ることができます。

フォトギャラリー

いすゞベレット マルーン
マルーンのツートーンが実にオシャレです
ベレット クーペ
尻下がりデザイン
ベレット セダン
この個体は珍しい左ハンドルです
ベレットGT
GTのエンブレムが誇らしい
ベレットGT 丸形2灯ヘッドランプ
珍しい丸形2灯のヘッドランプ
ベレット 珍しい形状のリアランプ
これも珍しい角型のリアンコンビランプ
ベレットGTR
DOHCエンジンを搭載した最強モデルGTR
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