ソニー スカイセンサー5900 – アナログBCLラジオの金字塔

1970年代後半に頂点を迎えたBCLブーム。家電メーカー各社はこぞって高性能・高機能なBCL向けラジオを発売しました。その中にあってナショナルのクーガ2200と双璧と言える人気を博したのがソニーのスカイセンサー5900(ICF-5900)でした。

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スカイセンサー5900とは

5900が誕生するまで

BCLとはBroadcast Listeningの略語で、海外短波放送を受信する趣味のことを意味します。海外短波放送が受信できるラジオなら真空管式の時代からごく普通に存在していましたが、「BCLラジオ」などと呼ばれるようになったのは1970年代前半の頃のようです。

ソニーからは1972年頃に「スカイセンサー5500」という機種が発売されましたが、これがソニーのBCLラジオのはしりだとされています。しかし、個人的には1973年(昭和55年)に登場したスカイセンサー5800こそが本当の意味でのBCLラジオの第一弾だと思っています。

その理由は、短波の受信帯域が3.9MHz~28MHzと、フルバンド(1.6MHz~28MHz)ではないものの大きく広がったことが一番です。スカイセンサー5500などそれまでの短波付きラジオが3.9MHz~12MHzしか受信できないこととくらべて、まるで大きく世界が広がったかのような違いがあります。

最大のライバル、ナショナル(現パナソニック)からはスカイセンサー5800に対抗してクーガ115というシルバーパネルが印象的なBCLラジオが投入されました。

もちろん他のメーカーも黙っていませんでした。東芝「サウンドナナハンGS(RP-775F)」、三洋「トランスワールド(RP7600)」、三菱「ジーガム304(FIC-304)」など各社こぞってBCLブームに参入しました。いわばBCLラジオの第1世代です。

ソニー スカイセンサー5800
本格的BCLラジオの第一弾 スカイセンサー5800

難しい短波のチューニング

短波は中波(MW)とくらべて周波数帯域がずっと広いにも関わらず、同じダイヤルスケールを使って周波数合わせ(チューニング)をする必要があります。一般的な3バンドラジオなら、中波の帯域幅が1,070KHz(530KHz~1,600KHz)なのに対して短波は8,100KHz(3.9MHz~12MHz)と約8倍も広いわけですから、ダイヤル操作にも8倍の精度が求められる、というわけです。「髪の毛一本」動かすような感覚で、指先に神経を集中してチューニングする。これがBCLの醍醐味の一つでもあったのです。

周波数直読という必殺技

BCLラジオの第2世代ともいうべき画期的な進歩を遂げたのが、スカイセンサー5900やクーガ2200などの「周波数直読」機能付きBCLラジオでした。

周波数直読とは、文字通りダイヤルスケールから周波数を読み取ることができるため、指先だよりのチューニングが不要になる、という画期的なものでした。これは、チューニングの難しさを歓びに感じるというある意味マゾヒスティックなBCLの醍醐味を放棄するものでもありましたが、狙った放送局の放送開始前からあらかじめ周波数を合わせておく、いわゆる「待ち受け受信」を可能にするものでした。

ソニー スカイセンサー5900
ソニーのBCL名機、スカイセンサー5900

スカイセンサー5900はスプレッドダイヤル方式

周波数直読を実現する手法はメーカーにより異なっていました。スカイセンサー5900では、親ダイヤルのほかに第2のダイヤル「スプレッドダイヤル」を搭載。

スカイセンサー5900 ダイヤル周辺
メインダイヤルとスプレッドダイヤル 短波は3バンド

まず親ダイヤルによって250KHz単位で周波数を合わせます。正確なチューニングにはクリスタルマーカーを起動します。250KHzごとにビート音が出ますので、それを頼りに正確無比な同調ができます。

クリスタルマーカースイッチ
水晶発振器が正確な周波数合わせをアシスト

次にスプレッドダイヤルを使って250KHz以下の周波数を5KHz単位(メモリの半分)で直接読み取りながら加減算します。こうして狙った周波数にピタリと合わせることができるのです。

スプレッドダイヤル
後期型のスプレッドダイヤル 前期型は表記がシンプルです

ちなみにライバルのナショナル・クーガ2200では「周波数直線バリコン」の採用と短波帯をなんと6分割するという手法によって、ひとつのダイヤルで周波数直読を実現していました。

ナショナル クーガ2200
クーガ2200はシングルダイヤルで周波数直読を実現

高性能の証、デュアルコンバージョン

第2世代BCLラジオのもう一つの特徴は受信回路の大幅な強化にありました。第1世代では「スーパーヘテロダイン方式」という回路が用いられていました。技術的な詳しい話はさておき、スーパーヘテロダイン方式自体はそれまでの回路方式をはるかに凌駕する高性能なものでしたが、「イメージ信号」といって、本来存在しない周波数の信号を発生してしまうという欠点がありました。

これに対して第2世代の多くに採用された「ダブルスーパーヘテロダイン方式」はイメージ信号の発生が少なく、かつ感度や安定度も向上するという優れた方式。「デュアル・コンバージョン」も同じ意味です。

デュアルコンバージョンの文字
高性能の証、デュアルコンバージョン

外部アンテナで微弱な電波をキャッチ

ラジオに装備されているロッドアンテナだけでも普通にBCLを楽しむことはできましたが、より本格的に趣味を極めたい人のために外部アンテナ端子を装備していました。

外部アンテナには様々な種類があり、アパートやマンションのベランダにねじ止めできるような小型のものから、庭に支柱を立てて設置する大掛かりなものまでありました。

外部アンテナ端子
外部アンテナで微弱な電波をキャッチ

嬉しいギミック

BCLとは関係ありませんが、所有感を満足させるギミックがあります。ロッドアンテナをポップアップさせるためのレバーです。カメラのフィルム巻き上げレバーを思い起こさせます。

先代のスカイセンサー5800にもポップアップ機構はついていましたが、プッシュ式スイッチでした。

イヤホン収納ポケット。実際に使うことはほとんどありませんでしたが、あるとなんか嬉しい装備です。

イヤホンポケット
イヤホンポケット
トーンコントロールなど
シルバーリングで装飾したボリューム類
キャリングベルト
キャリングベルトは伸縮自在です
スカイセンサー5900斜め前から
硬派なスカイセンサー5800よりも若々しいイメージ

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データ

  • モデル名:ICF-5900
  • 発売:1975年(昭和50年)
  • 定価:27,800円
  • サイズ:サイズ:W 223 x H 234 x D 102 (mm)
  • 重量:2.2Kg(電池含む)

カタログより

スカイセンサー5900カタログ表紙
スカイセンサー5900単品カタログ
カタログ中面
「電波わしづかみ」は名キャッチコピー
機能解説
スプレッドダイヤルの操作説明もあります
ベリカードの集め方まで解説 さすがBCLブーム最盛期のカタログ
カタログ裏面
外部アンテナを設置できる人がうらやましかった

管理人のつぶやき

機能や性能にデザインまで含めて、実に完成度の高いBCLラジオだと思います。

ただ、現在では海外短波放送を受信する意味も価値もほとんどないため、普通のラジオとしてみるならば、私にはスカイセンサー5800のほうが魅力的に映ります。

一番の違いは音質ですね。スカイセンサー5900は籠ったような音質であまり好きではありません。スカイセンサー5800のほうがずっとクリアー。何が違いを生んでいるのかわかりませんが、音質はスカイセンサー5900の唯一の欠点ではないかと思っています。

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